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「僕たちを助けて下さい、家族を死なせたくない」

ヘレナさん(左)、長男エルダーさん(中)、2歳のリウババちゃん。ロシアの侵攻を受け、故郷のウクライナからスイスに逃れた Milena Nowak

チューリヒ郊外に住むポーランド人のミレナ・ノヴァクさん(39)宅には、ウクライナ人親子3人が身を寄せる。3人とミレナさんをつなげたのは1通のフェイスブック上のメッセージ。送り主は16歳の男子高校生だった。

このコンテンツは 2022/03/27 08:00

「どうかお願いします。僕たちをロシアの侵攻から救って下さい」。今月4日、チューリヒ州プフェッフィコンに住むミレナさんのフェイスブックアカウントに突然、こんなメッセージが届いた。

送り主はウクライナ西部ジトーミル近郊に住む、エルダーと名乗る男子高校生だった。母親と2歳の妹がいること、父親は戦争のため祖国に残ること、欧州に安全な場所を求めて避難したいことなどが英語でつづられていた。

不審がられないようにと思ったのか、母親は地元の大学の講師で、自分はスタートアップを創業した経験があること、ドイツ語を勉強していてスイスがとても好きであることなども書かれていた。

ジトーミルはロシアの大規模なミサイル攻撃を受けた場所だ。「僕の学校は破壊されました。ミサイルがいつ僕たちの命を奪ってもおかしくない。どうか僕たちを救って下さい。家族を死なせたくない。僕たちに幸せな生活を送るチャンスを下さい」。メッセージはそう締めくくられていた。

ミレナ・ノヴァクさん Milena Nowak

ミレナさんはロシアのウクライナ侵攻が始まった直後から、フェイスブック上でウクライナに対するスイス政府の支援情報を頻繁に投稿していた。母国ポーランドと国境を接するウクライナの人たちが虐げられているのを見て、とても他人事とは思えなかった。

エルダーさんとは面識はなく、メッセージをもらったことに驚いたという。だが「きっとこの子は、ポーランド国境に詰めかけた大勢のウクライナ難民を見て、受け入れ能力のありそうな遠方の西欧諸国へ目を向けたのではないか」と思いを巡らせた。その中で支援情報を発信しているこの女性なら、助けてくれるかもと考えたに違いない、と。

「何よりも10代の子が助けを求めてきているのに、無下に断るなんて私にはできなかった」。すぐ、自分が受け入れると返事を送った。

3日間で2千km

翌5日、エルダーさんらはジトーミルを出発。ポーランド、ドイツと電車やバスを乗り継いで移動した。

金融業界で働くミレナさんは1人暮らし。すぐに3人を迎え入れる準備を始めた。ソーシャルメディア上で3人の衣類や靴などの寄付を募ったところ、あっという間に段ボール3箱分の支援物資が届いた。リウババちゃん用のベビーカー、エルダーさんが寝るソファベッドも友人が寄付してくれた。

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ミレナさんも一家が使うためのたんす、子供用のテーブルを買い足したが、残りの生活用品は寄付で十分賄うことができた。ミレナさんは「こんなにも多くの人がすぐに協力してくれて、とても嬉しかった」と話す。

ミレナさん宅に届いた支援物資 Milena Nowak

ジトーミルを出発した3日後、一家はスイス・バーゼルに到着。車を持たないミレナさんの代わりに、友人が迎えに行ってくれた。ミレナさんはベジタリアンだが、3人のためにとチキンスープを作って到着を待った。だが2千キロメートルの旅を経た一家は疲れ切っていた。その日はシャワーを浴びて休み、スープは翌日食べたという。

「新しい私の家族」

安全を手に入れた一家だが、戦争への不安は残る。

母親のヘレナさんはウクライナの前線で医療物資を運ぶ夫と毎日連絡を取り合い、安否を確かめている。だが戦争のニュースを見た時は、気持ちが不安定になるという。

エルダーさんはミレナさんが使っていないノートパソコンをもらい、ウクライナから逃れた同級生たちと連絡を取り合う毎日だ。だがエルダーさんもウクライナのニュースを読みふけり、時には2時間もふさぎ込んでしまうことがあるという。ミレナさんは「彼のそんな姿を見るたびに心が痛む」と話す。

ヘレナさんの42歳の誕生日。ミレナさんはウクライナの国旗のモチーフが付いたケーキをプレゼントした。それでもミレナさんは「本当なら自宅でお祝いしたかったと思う」と一家を気遣う Milena Nowak

4人は今、ミレナさんの40平方メートルほどのアパートで一緒に暮らす。ヘレナさんとリウババちゃんがゲスト用の寝室を使い、ミレナさんが自分の寝室で寝る。エルダーさんはリビングルームのソファベッドで寝ている。

ミレナさんとヘレナさんは1日交代でご飯を作る。ミレナさんはベジタリアンフードを、ヘレナさんは主に肉料理を作ってみんなで食べる。

家族で散歩に行くと、植物が好きなヘレナさんが色々な花の名前をミレナさんに教えてくれる。ウクライナでの暮らしのこと、家族のこと、食べ物のこと。「英語や時にはポーランド語、ウクライナ語で、本当にたくさんのことを話すんです」。ミレナさんは一家のことを「moja rodzinka(ポーランド語で「私の家族」)」と呼ぶ。

プフェッフィコンの役所は、一家の難民申請やエルダーさんの入学手続きなど積極的にサポートしてくれた。エルダーさんは既に地元の学校に通っている。一家はアパートが見つかるまで、ミレナさんの家で一緒に暮らす予定だ。

ミレナさんは「一人ひとりができることは小さなことかもしれない。でも、部屋の提供が無理なら募金をしたり、手持ちの服に寄付できるものはないか探してみたり、できることはあるはず。そういう小さな一歩が積み重なって大きな支援につながる」と話す。

21日、ミレナさんは母子をチューリヒ市内の動物園に招待した。トラとゾウを見たことがないというリウババちゃんに本物を見せてあげたかったからだ。リウババちゃんはゾウの飼育場所にたどり着く前に寝てしまったが、念願のトラを見ると「ミャア、ミャア」と猫の鳴きまねをしてとても嬉しそうだったという。

(編集部注:英語版から加筆しました)

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