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新しい麻薬政策を探る

記者会見に臨んだ、左からブラジルのカルドソ元大統領、スイスのドライフス元内相、コロンビアのガビリア元大統領 Keystone

「今までの麻薬政策は完全に失敗だった」という確信が南米諸国に広がっている。南米はもちろんアジア、アフリカでの麻薬消費量は増え続け、麻薬犯罪組織も増加。国によっては、政府の存在さえこうした組織によって脅かされている。

このコンテンツは 2011/01/27
里信邦子 ( さとのぶ くにこ ), swissinfo.ch

こうした状況を受け、南米の政治家を中心に新しい対策を探る薬物政策国際委員会他のサイトへがジュネーブで立ち上げられ、1月24日、25日の2日間にわたり討議が行われた。

メキシコで1万5200人の死者

この委員会はブラジルのフェルナンド・カルドソ元大統領を議長に、コロンビアのセサル・ガビリア元大統領、メキシコのエルネスト・セディージョ元大統領、スイスのルート・ドライフス元内相などの政治家に、ペルーのノーベル賞受賞作家、マリオ・バルガス・リョサ氏やエイズ対策の専門家などが加わり、およそ15人で構成されている。

AFP外電によれば、麻薬犯罪組織が多くの犠牲者を出しているコロンビアは、ペルーと共に2009年だけで約400トンのコカインを生産。さらにメキシコでは、麻薬犯罪組織と政府軍隊との衝突で2010年だけで1万5200人の死者を出している。

こうした中、南米諸国は2009年に「麻薬と民主主義に関する討議委員会」で、過去の麻薬政策への反省を行った。今回、この委員会での検討事項を国際レベルに広げたいという意図で世界の麻薬対策関係者に声を掛けジュネーブで第1回会議をスタートさせた。

単なる禁止は無駄

「麻薬をただ禁止するという強硬的なやり方に南米諸国は疲れた。巨額の資金を投入して禁止や取り締まりを行ったが、何の効果も生み出さなかったからだ」

と話すのはガビリア元大統領だ。

コロンビアは、取り締まりに力を入れてきた南米の代表的な国だが、麻薬消費者やギャング組織による麻薬犯罪は増加の一途を辿ってきた。

「結局、麻薬消費者を犯罪者と見なす政策は捨て去るべきだ」

とガビリア元大統領は強調する。

ブラジルのカルドソ元大統領も

「例えばアメリカではまだ麻薬取り締まり強硬策が取られており、麻薬消費者を投獄している。現在50万人もの人が麻薬に何らかの関係を持ったというだけで入獄中。ほとんどが貧困層だ。しかし、それで麻薬を止めるどころか、かえって獄中でほかの麻薬に溺れたり、麻薬犯罪組織に加わったりする」

と語り、こうした強硬策は何の効果も上げないとガビリア元大統領に同調する。

結局、1971年にリチャード・ニクソン米大統領 (当時 ) が唱え、関係各国に参加を呼びかけた強硬な麻薬政策「麻薬戦争 ( War on Drugs ) 」は失敗だった。

スイスのモデル

では、今回検討された新しい政策とは何なのだろうか?

「一つは、麻薬消費者や小さなディーラーたちを取り締まる代わりに、大型の犯罪組織に標的を定めることだ」

と参加者の1人ジョージ・シュルツ元米国務長官は言う。

もう一つは

「麻薬消費者を犯罪者ではなく1人の患者と見なし、治療を行うことだ」

とブラジルのカルドソ元大統領。アルコール中毒患者に対すると同様、麻薬から抜け出すためのセラピーなどに今まで取り締まりに費やしてきた資金を当てて行くことが第1歩だと主張する。

さらに、スイスで現役時代に麻薬問題を扱ったドライフス元内相は

「なぜ、たばこ禁止運動がマリファナ禁止運動よりうまくいったかということから多くが学べる」

と話す。

たばこをやめるのは「禁止されている」からではなく、「個人の健康に有害」だからだという認識がキャンペーンなどで学校や一般に広まったからだ。麻薬も同様に健康を害するという認識から始めるべきだという。

さらに、現在スイスが麻薬消費量で落ち着いているのは、基本的に麻薬中毒者を患者と見なし、立てた対策が効果を発揮したか否かを専門家が科学的に検証し、試行錯誤しながら一歩一歩進めてきたからだ。例えばエイズウイルス ( HIV ) 感染を食い止めるためヘロイン患者に消毒した注射針の配布や純度の確認されたヘロインを無料提供し、また更生施設も作った。法律も現状に合わせて改正してきた。

その際、大切なのはこうした対策を一般市民に公開して、麻薬の恐ろしさを含めさまざまな情報を与えてきたからだとドライフス元内相は注意を促す。

6月に第2回会議

こうしたスイスのモデルなども参考に、今回の結論は

「強硬な麻薬の禁止政策を廃止し、これに投資してきた資金を麻薬患者のHIV感染などの危険性の回避、治療や更生、また一方で予防のためのキャンペーンなどに回すことだ」

という。

また、今回の第1回グローバル委員会が今後目指すのは、アメリカで6月に開催される予定の第2回会議に各国の麻薬対策関係者を招待し、以上のような結論を文書化した上で、関係機関や各国の政策決定者たちに伝えることだ。

薬物政策国際委員会 ( Global Commission on Drug Policy )

南米諸国が2009年に行った「麻薬と民主主義に関する討議委員会」での反省事項を国際的に広げる目的で立ち上げられ、1月24日、25日とジュネーブで討議を行った。

参加者は、ブラジルのフェルナンド・カルドソ元大統領、コロンビアのセサル・ガビリア元大統領、メキシコのエルネスト・セディージョ元大統領などの政治家に、作家やエイズの専門家などが加わった。スイスからはルート・ドライフス元内相も参加した。

強硬で弾圧的な麻薬政策である、アメリカ主導の「麻薬戦争」に終止符を打ち、麻薬患者のエイズウイルス ( HIV ) 感染など危険性の回避、治療や更生、また一方で予防のためのキャンペーンなどに、舵を切り替える。

次回6月の第2回会議はアメリカで開催され、会議での結論は各関係者、関係機関にメッセージとして伝えられる。

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スイスの麻薬対策

スイスでは、麻薬中毒者を患者と見なし治療を施す姿勢を貫いている。

HIV 感染の広がりを防ぐため、消毒された注射針と純度の確認されたヘロインの配布を行っている。

同時に更生方法として、ヘロインの代わりにメタドン投入の治療を行う。

大麻は、現在基本的には禁止されている。消費者を取り締まるというより、ディーラーを取り締まる方向性を採り、一方でたばこ禁止運動に影響を受け、キャンペーンなどで消費者に健康被害を訴えている。

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