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静かなる欧州革命

今年のヨーロッパ・デーには自由と平和と民主主義を求めたデモが行われた。ロシアのウクライナ侵攻を機に、欧州連合(EU)では市民の政策決定への関与強化を求める声が高まっている Keystone / Stephanie Lecocq

ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、欧州連合(EU)で権力バランスが揺らいでいる。政策決定への共同参加を求める市民の声が強まっているためだ。スイスで先日行われた欧州対外国境管理協力機関(Frontex)への負担金を巡る国民投票は、EUが目指すべき市民参画のヒントを示している。

このコンテンツは 2022/05/29 09:00

5月の国民投票は、有権者がEUの特定機関の拡大について賛否を表明する初の機会となった。特筆すべきは、それがEUの加盟国ではなくスイスで行われたことだ。この国民投票では、投票者の71.5%がFrontexに対するスイスの負担金増に賛成した。Frontexとは、EUの対外国境の警備を行う機関のこと。シェンゲン協定加盟国であるスイスは、同機関の運営資金を分担している。

欧州の国でEUに関する案件の是非が国民投票で問われたのは、Frontexを巡る今回の国民投票で63回目となる。そのうち13回がEU非加盟国であるスイスで実施された。EU加盟の是非についてはいくつもの国で国民投票が実施されてきたが、スイスではそれが国民投票に直接かけられたことはない。

ニューヨーク大学のアルベルト・アレマンノ教授 zVg

欧州では今回の国民投票に対する世間の関心度は低かった。世間の視線は現在、ロシアのウクライナ侵攻とその影響に注がれている。欧州はロシアから身を守ることに専念しているのだ。

ニューヨーク大学のアルベルト・アレマンノ教授(法学)は「ウクライナでの戦争により、欧州でこれまで当たり前だったことが急速に変わりつつある」と言う。戦争の直接的影響の1つが、北大西洋条約機構(NATO)の北方拡大だ。これまで中立だったフィンランドとスウェーデンがNATOへの加盟をすでに申請している。

また、デンマークでもEUの共通安全保障・防衛政策に参加するかどうかを問う国民投票が6月上旬に行われる。デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は今回の国民投票実施を発表した記者会見で、「ウクライナの戦いは、ウクライナだけの問題ではない。これは我々の価値観、民主主義、人権、平和、自由といった我々の信じるすべてのものに対する試練だ」と述べた。こうして、スイスの国民投票から間もない6月に、欧州でEUに関する案件を問う64回目の国民投票が続くことになった。

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英コベントリー大学で教鞭(きょうべん)をとるデンマーク系英国人の政治学者マット・クヴォートラップ氏は、こうした国民投票は近年世界的に拡大している権威主義に「反対」を示す重要な機会だと指摘する。「歴史を振り返れば、権力者は危機の時代にだけ国民と権力を共有してきた。今はまさにその時代と言える」

こうした時代の流れはEUにも及んでいる。民主主義へのうねりは、市民がEU当局に改革提言を行う「欧州の未来会議」が先日発表した報告書でも見て取れる。会議の共同議長でベルギー元首相のヒー・フェルホフスタット氏は報告書の発表会見で「ウクライナでの戦争で、EUにはさらなる発展が不可欠なことが明確になった」と述べた。

昨年発足したこの会議には、EU機関や加盟27カ国の代表者のほか、欧州中から無作為に選ばれた市民800人が参加した。

会議では、EU全体での市民投票およびEU議会選挙の共通候補者名簿の導入や、多くの政策分野で全会一致原則を廃止することなど、重要な民主改革を含む325もの具体案が合意された。

独ケルンのシンクタンク「デモクラシー・インターナショナル」のダニエラ・ヴァンチッチ氏 zVg

会議を見守った独ケルンのシンクタンク「デモクラシー・インターナショナル」のダニエラ・ヴァンチッチ氏は、「欧州の民主主義が飛躍する機運はある。今後は、加盟国政府の過半数が諸条約の改正プロセスに納得できるかどうかにかかっている」と語る。

実際、EU中枢機関の過半数が未来会議の主要提言に賛成している。また、EU議会は憲法会議の召集を支持した。フランス大統領に最近再選を果たした現欧州理事会メンバーのエマニュエル・マクロン氏は、「我々は条文を改正しなければならないだろう。この改革を行う方法の1つは、諸条約改定のための会議を招集することだ」と述べた。

小規模のEU加盟国は、EU全体で民主的手段が強化されれば個々の国の影響力が弱まるとの懸念から、この動きには反対の立場だ。しかしスイスの研究機関gfs.bernの最新調査によれば、加盟国の市民の間では未来会議は肯定的に受け止められている。

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欧州各国を比較したこの調査ではさらに、EU関連のテーマについて自国および欧州全域の市民投票を通して市民に政策決定への参加機会を設けることに対し、全EU加盟国の市民の過半数(一部の国では圧倒的過半数)が賛成していることが分かった。

調査ではまた、スイスで先日実施されたFrontexを巡る国民投票に関連して、同様の市民投票の実施を求める声が各EU加盟国でどの程度あるのかを調べた。結果、北欧諸国とオランダを除き、政治の意思決定に異を唱えるための市民投票の機会を望む声が多数を占めた。

直接民主制財団のダニエル・グラーフ氏 livingpool-photography

この調査を共同委託した直接民主制財団他のサイトへ(本拠・バーゼル)のダニエル・グラーフ氏は、「市民投票は社会的議論を起こすのに非常に有効な手段である」ことがスイスの例から分かると話す。もう1人の共同委託者である経済学者のルチウス・マイッサー氏は、「欧州で直接民主制の機運が高まっている。市民には政治的意見を形成する能力があること、そして市民は政策決定にもっと関わっていきたいと思っていることが今回の調査で示された」と語った。

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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