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視覚障がい者の投票、なぜスイスで困難か?

「国際白い杖の日」の10月15日、連邦議事堂前広場に集まった視覚障がい者たち。2016年、ベルンで撮影 Keystone / Peter Schneider

スイスは障がい者にとっていまだ政治参加がしにくい国だ。特に視覚障がい者の場合、投票はできるが補助が必要となり、投票の秘密が侵害される可能性がある。一方、この問題に解決策を見出した国もある。

このコンテンツは 2022/01/09 08:00

レグラ・シュッツさんはパソコンに向かって新聞を読んでいる。正確に言うと、新聞を「聞いている」。しかも再生速度は驚くほど速い。「これでも私には少し遅いぐらい」とにやりと笑う。記者のために特別に速度を落としてくれたのだ。

シュッツさんは視覚障がい者だ。今は近々行われる投票に関して情報を聞いている。

スイスでは年4回、国民投票がある。投票に関する情報は簡単に入手できるが、投票行為そのものには困難が伴う。スイスの投票用紙は視覚障がい者が自分で記入できるようには作成されていないのだ。

スイスの国内法や、スイスが署名した国連障害者権利条約は秘密投票の保障を求めているが、この状況では秘密投票は確保できていない。スイス全国盲人協会によると、秘密投票が保障されない可能性のある人はスイスで約25万人いる。

これについて連邦内閣事務局は、自分で投票できない人には第三者の支援を得ることが法律上明確に認められていると指摘する。

認知障がいのある人にとって、現状はさらに許しがたいものだ。スイスでは知的・精神障がい者には投票や選挙への参加が認められていない。この点についてスイスは国連から定期的に批判を浴びている。ジュネーブ州は約1年前、国内の州では初めて知的・精神障がい者に投票権・選挙権を認めた。

シュッツさんは他人の補助がなくては投票できないこと自体が差別的だと感じる。補助を引き受けてくれ、信頼できる人が身近にいるにもかわらずだ。

皆がそうした人を持つわけではない。同じく視覚障がい者のジャンフランコ・ジュディツェさんは「十字架を正しい場所に置いてくれるような、信頼できる人を探すのはかなり難しい。補助者が見つからないために投票に参加できないこともあった」と語り、別の問題も指摘する。「補助者が形式的なミスをして、投票が無効になる可能性もある。自分にはそれをチェックすることができない」

これにはシュッツさんも同意する。「ミスはいつでも起こり得る。頼んだものとは違う牛乳やバターを買ってこられたら、イラついてしまうこともある。投票となると、こうしたミスはさらに深刻だ」

スイスだけの問題に限らない

障がい者が政治参加する際のハードルをどう取り除けばよいだろうか。これは投票や選挙のある全ての国が抱える問題だが、既に解決策を見つけた国もある。

スウェーデン視覚障がい者協会のヘンリック・ギョーテソン氏は「スウェーデンでは、視覚障がい者は秘密投票の下で政党を選べる。ブライユ点字で書かれた、特製封筒入りの投票用紙を申請できる」と語る。ただし、健常者同様に候補者名簿を変更する際には補助が必要で、特定の候補者を選ぶことができない。

そこでギョーテソン氏は、候補者名簿の上に置けば、どこに印をつければいいのかが分かる型紙の使用を提唱する。このような型紙は、ドイツ、オーストリア、南アフリカ、カナダなどの国では以前から存在する。

スイス全国盲人協会はこれを少なくとも国民投票で導入したい考えだ。同協会は、視覚障がい者が補助なしでも投票できる型紙を開発済みで、全国的な導入に向け当局や政治家との協議を進めている。

スイス全国盲人協会が企画する投票テンプレートはこのようなものだ ZVG / SZB

しかし事は複雑だ。連邦内閣事務局は「選挙及び投票の実施は州の管轄。州の集計方法に合わせて独自の投票用紙を作成するところもある」と電子メールで回答した。つまり、スイスが第一に取り組むべきことは投票用紙を全国的に統一することだ。これに関しては連邦は州の協力を仰ぐ必要がある。

障がい者たちはこの解決策をどう考えるだろうか。シュッツさんは「型紙が役に立つのはせいぜい投票のときだろう。選挙はそれほど簡単ではない」と話す。スイスの連邦議会選挙は投票方法の自由度がかなり高い。有権者は候補者名簿を事前に記載された通りに提出することもできるが、候補者の順位を変えたり、同じ候補者の名前を2回記載したり、特定の候補者名を削除したり、異なる政党から選んだ候補者を1つの名簿にまとめたりすることもできる(異党派連記投票)。

ジュディツェさんは「手っ取り早い解決策としては何もないよりは良いが、それでも正しい用紙を型紙に挟んで、印を正しくつけられるかは確認できない」

障がい者たちの希望は電子投票

ジュディツェさんが考える最善策は電子投票制度だ。「(電子投票制度は)健常者も含め誰でも利用できる。これは視覚障がい者のための特別な解決策ではない」。シュッツさんも、なぜ電子投票制度が利用できないのか理解に苦しむという。

スイス盲人視覚障がい者協会(SBV)のマルティン・アベレ氏も彼らに同意する。「電子投票制度は投票でも選挙でも包括的な解決策になるだろう。バリアフリーが確保されていれば、この制度はスタンダードになる」

連邦内閣は2019年、セキュリティー上の懸念から、電子投票を通常の投票手段としては当面導入しないことを決定した。これにはジュディツェさんは反対する。「セキュリティーやデータ保護がいつも問題にされるが、そのような議論は馬鹿げているし矛盾している。郵便投票では視覚障がい者による投票の安全性や、投票の秘密が保証されていないからだ」

今のところ電子投票に関しては大半の国が消極的だ。スウェーデン視覚障がい者協会のギョーテソン氏もこう語る。「視覚障がいのある私たちには電子投票は良い解決策だろう。しかし安全上の懸念から政治的な実現可能性は低い。残念ながら視覚障がい者にとって完璧な選挙制度がある国は今のところ存在しない」

ただ、連邦内閣事務局はこの問題を認め、「電子投票なら、視覚障がい者はもっと自立した投票行動ができる」と取材に対して回答している。電子投票の試験運用は近いうちに各州で再び可能になるという。

社会の認識が必要

この問題は視覚障がい者にとって深刻だ。ジュディツェさんは「自分の立場を代表する政治家は誰もいないと感じる」と話す。

障がい者団体AGILE.CHのクリス・ヘール氏はこう言う。「インクルージョンが欠けているのは投票だけではない。障がいのある人々は政治全般で十分に代表されているわけではない。障がい者の政治参加は当たり前であるべきだ」

そのためにはスイスには実現すべき方策が山ほどあるとヘール氏は考える。政党はバリアフリーに関心を向け、視覚障がい者がアクセスできるようにウェブサイトを制作し、イベントには聴覚障がい者のために手話通訳を用意し、車いすの人のために階段ではなくスロープを置くべきだという。

障がい者のインクルージョンを実現するための努力は、ある種の社会福祉として捉えられることが多いとヘール氏は指摘する。だが、それでは本来の目的が見失われてしまうという。本来の目的は、リベラルな人権を実現させるということなのだ。

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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