Navigation

スイスの科学研究 変革をもたらす女性たち

「ロボット工学の恩恵にも目を向けてほしい」

連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)のロボットビジョン研究室を率いるマルガリータ・クリ教授(37歳) Geri_born

マルガリータ・クリ氏(37)はスイスのロボット工学分野で成功している数少ない女性の一人だ。クリ氏はこの分野の教育現場でのロールモデルがもっと必要だと訴える。また、ロボット工学がいかに人間にとって有益かを広く知ってもらいたいという。

このコンテンツは 2021/11/14 09:00

マルガリータ・クリ氏は家族からの応援もあってコンピューター工学を大学で専攻したが、英国での博士課程在学中にロボットビジョンに興味を持った。ロボットビジョンとは、カメラなどのセンサーを通して得た映像データをソフトウェアで分析することで、ロボットが周囲の世界を「見る」ことを可能にする技術だ。同氏は現在、連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)のロボットビジョン研究室を率いている。

クリ教授にとってのスイスは、豊富な研究資金と人材を持ち、ロボット工学で革新的な研究をするのに理想的な場所である。同時に、緑の山々や夏になると沐浴を楽しむ人であふれる湖や川が自分の故郷であるキプロス島を思い起こさせることから、スイスを第二の故郷とも思っている。

クリ氏はもっと多くの女性にロボット工学分野に参入してほしいと考える。ロボット工学は災害救助や個別化医療に力を発揮し、人間の生活のクオリティ向上に貢献できると考えるからだ。swissinfo.ch は同氏に、ロボット工学を研究する上での挑戦とはなにか、女性も男性も含めてスイスの科学者に何ができるのかについて聞いた。

科学における女性

他のEU諸国に比べると、スイスの女性科学者の数は少ない。女性教授の数はわずか23%他のサイトへで、特に自然科学と工学の分野で少ない。

新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)の影響で、女性研究者の仕事はさらに打撃を受けたと見込まれている。2018年1月1日から2021年3月31日までの期間に出版された数千件の論文著者をスイスの研究グループが解析した結果によると他のサイトへ、パンデミックの第1波の際に出版された論文で主要な著者となった女性は、前の年よりも減っていた。この解析によると、女性研究者は男性研究者に比べてロックダウンに伴う仕事と家庭の両立の負担が大きかったのがその一因と見られる。

End of insertion

swissinfo.ch: 10年前と比べて、ロボット工学を学ぶ女子学生の数は増えていると思いますか?

マルガリータ・クリ:残念ながら、答えはノーです。とても悲しいことですが。私がスイスに来た頃、50人いた学生中たった2人ほどしか女子学生はいませんでした。私が博士号をとってから10年ほどたちますが、それでも女子学生の割合はさほど変わったとはいえません。私は英国にいたので、余計にそう感じるのかもしれません。正直に言って、この点でスイスは英国よりも遅れています。

私がいるのは機械工学科で、伝統的に女性の割合が小さいのは事実です。しかし、女子学生の数を増やさなければならない、また、女性の大学院生を増やす努力が必要だという話は常に耳にします。我々の講義をもっと女性にとって魅力的にする努力が必要です。試行錯誤はしていますが、その成果が目に見えるまでには20年ほどかかるでしょう。根気のいる仕事です。

swissinfo.ch:この仕事を選んだ時、平坦な道ではないということに気づいていましたか?

クリ:私の育った家庭では、学業でも仕事でもジェンダーについて気にする人はいませんでした。大学に入学し、計算機科学のコースで100名のうち3名しか女子学生がいないことに気づいたときには愕然としました。何かがおかしい、そう思い始めたのはその頃です。

swissinfo.ch:どうやったら科学系のコースの女性を増やすことができるでしょうか?

クリ:女性の教授を増やしロールモデルを作るのが一つの方法だと思います。あらゆる手段を講じる必要があります。女性の発言権を大きくし、議論を活性化させ、チャンスを増やすのです。そうすることで、歴史が築いてしまった女性へのバリアを少しずつ壊していくしかありません。

swissinfo.ch:今までに差別を感じたことはありますか?

クリ:もちろんです、感じたことのない人なんていないのでは?物語のヒロインでなくても、誰でも人生で何かしらの障害を乗り越えなくてはなりません。宗教や出身地、肌の色など様々な原因で差別は起こりえます。それでも何とかやり過ごして、ゴールに向かう必要があります。

成功の鍵は、自分自身の声に耳を傾けることです。これは男性の方が得意とすることかもしれませんが。私が言いたいのは、自分の進む道を遮る雑音には耳を貸すなということです。自分が正しいことをしていると信じるなら、止まらずにゴールに向かって突き進むべきです。もし誰かに女だからポジションを得たなどと思われたとしても、気に留めてはいけません。遅かれ早かれ、間違いだと証明することができるはずです。男性でも同じことです。ジェンダーの型にはまった考え方は捨て去らなくては。

swissinfo.ch:自分の仕事が素晴らしいものだと思いますか?

クリ:もちろんです。世界で最も恵まれた仕事とすら思います。一緒に働く人たちはやる気に満ち溢れ、社会を変えたいという尊い意思を持っています。なにより、学生たちが日々進歩するのを見るのはとても喜ばしいですし、最も達成感を感じることです。

少しでも人間の生活の質を改善したり、ロボット工学への社会的な認識を変えたいと願ってこの仕事をしています。

ロボット工学は監視社会の出現や軍事応用に結び付けられ、未だにネガティブな印象を持たれがちです。これらの自動化によって何が起きるかを心配する人もいます。もちろんそのような恐れを否定はできません。しかし、そのような悪い面だけでなく、どんな恩恵がもたらされるかにも目を向けてほしいです。

swissinfo.ch:どうしたらロボット工学からの恩恵に気づいてもらえるでしょうか?

クリ:講義のたびに、ロボット工学のもう一つの側面、つまり良い面を紹介するよう心がけています。例えば、山での雪崩や地震などの災害時に被害者を探索し救助するとか、工場での異常の発見などに、どのように役立つかという話をしています。

昨年夏には、ギリシャ全土が大規模な山火事に見舞われました。ある友人から、ドローンでそのような区域をモニターできないかという相談を受けました。残念ながら、我々の研究はそれが可能な域にまでは至っていません。しかしこのことは、ロボット工学が我々の生活に貢献できる好例と思います。

swissinfo.ch:スイスと欧州連合(EU)の交渉が決裂し、ホライズン・ヨーロッパなどのEUの枠組みでの重要な研究プロジェクトにスイスは参加できないことになりました。そのことで研究に影響がありますか?

クリ:もちろんあります。スイスの研究にとってかなりの痛手です。私もヨーロッパのプロジェクトと共同研究してきました。ヨーロッパの研究資金を得るには、スイスにいること自体が不利ではありましたが、スイスの研究機関は研究者たちが快適に研究できるよう最善を尽くして来たと思います。

スイスは豊かな国で政府からの研究資金が期待できるため、ヨーロッパからの研究資金が得られないという傷はいくらか癒やされます。しかし、将来的にヨーロッパの研究機関と共同研究することには、大きな利益があります。同時に、豊かな国として、スイスには貢献する義務もありますが。

swissinfo.ch:ロボット工学にどのように貢献したいですか?

クリ:ある人の言葉がきっかけで、20年前の女性だったら私のようなキャリアパスは望めなかった、という事実を考えさせられたことがあります。そう思うと重責を担っていると感じますが、同時にこれは大きなチャンスとも思っています。私の夢は、「私もあんなふうになりたい」と思わせる良いロールモデルとなり、女性男性問わず若者に科学の世界に魅力を感じてもらうことです。また、ロボット工学が社会にできることを示し、より良い社会になるよう貢献したいです。そう願わない科学者なんて、いないと思いますよ。

(英語からの翻訳・清水(稲継)理恵)

このストーリーで紹介した記事

JTI基準に準拠

JTI基準に準拠

おすすめの記事: SWI swissinfo.ch ジャーナリズム・トラスト・イニシアチブの認証授受

現在この記事にコメントを残すことはできませんが、swissinfo.ch記者との議論の場はこちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

共有する

パスワードを変更する

プロフィールを削除してもいいですか?