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2022年2月13日のスイス国民投票

動物実験禁止 スイス、4度目の国民投票へ

© Keystone / Gaetan Bally

スイスの動物愛護家らが、国内の動物・人体実験を全面的に禁止するイニシアチブ(国民発議)を立ち上げた。その是非を問う国民投票が来月13日に行われる。連邦議会では全政党が同案を「過激」と判断。同案はスイスにおける科学・医学研究の発展を大きく妨げると懸念されている。

このコンテンツは 2022/01/10 08:30

「動物実験禁止イニシアチブ」の概要

動物実験の禁止に関する国民投票が行われるのはスイス史上4度目だ。スイスの有権者はこれまでに、同様のイニシアチブを3件―1985年(有権者の70%が反対)、92年(56%)、93年(72%)―否決してきた。来月13日の国民投票で有権者に判断が委ねられる今回の提案は、あらゆる動物実験と人体実験のほか、このような実験を経て開発された新製品の輸入も禁止するよう求める。

動物実験はスイスで広く行われているのか?

スイスでは過去10年にわたり、毎年約60万匹の動物が実験に使われてきた。しかし、連邦内務省食品安全・獣医局(BLV/OSAV)の統計他のサイトへによると、この数は減少の一途をたどっている。スイスの研究機関が2020年、実験に使った動物は55万107匹。その大半はマウス(34万6千匹)、鳥(6万6千羽)、ラット(5万2千匹)だ。

研究に使用された動物の数の集計方法は国によって異なるため、国際比較は難しい。公的な統計によると、例えば、フランスの研究機関が19年に使用した実験動物は180万匹、ドイツでは290万匹だった。

スイスで行われる動物実験のほとんどは、高等教育機関や企業によるものだ。20年に行われた動物実験の6割以上が生物学の基礎研究に関するもので、科学的仮説の実証や、細胞や臓器の摘出を目的としていた。

スイスの現行法制

スイスで08年に施行された動物保護法他のサイトへは、世界で最も厳しく、最も整備されている法律の1つだ。研究機関には、各動物実験やすべての動物拘束について、当局の許可を得る義務がある。研究者は、実験動物に与える苦痛よりも社会の利益の方が重大であることを証明しなければならない。

動物実験の必要性を検討するために、実験動物に課される制約がない0度(観察研究など)から、過酷な制約がある3度(悪性腫瘍の移植など)までの「過酷度」が定められている。

さらに、動物実験が許可されるのは、研究課題に取り組む代替手段が存在しない場合に限られる。研究における動物の使用は、動物実験の国際原則「3R」―Replace(可能な限り代替手段を活用)、Reduce(動物の使用数を削減)、Refine(動物に与える苦痛を出来るだけ軽減)―にのっとり管理されている。

▼スイスで開発が進む動物実験の代替手段について。フランス語圏のスイス公共放送(RTS)のルポルタージュ。

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「動物実験禁止イニシアチブ」が求めるもの

イニシアチブ他のサイトへの正式名称は「動物実験と人体実験の禁止に賛成―安全と進歩をもたらす研究手法に賛成」だ。動物を使う全ての実験を国内で禁止するよう求める。すなわち、科学分野の教育や基礎研究で実験動物の使用が認められなくなるということだ。

また、同案は人体実験の禁止も訴えるが、それが医学や生物学に限られるのか、あるいは心理学、社会学、スポーツ科学も含まれるのかは明確にしていない。

さらに、動物実験を経て開発された新しい製品や成分の輸入禁止も要求する。動物実験を行わない研究は、動物実験を行った研究がこれまでに受け取った公的補助金と少なくとも同額の補助金を受け取るべきだと主張する。

誰がイニシアチブに賛成しているのか?

動物実験禁止イニシアチブを立ち上げたのは、自然療法医や医師、有機農家をはじめとするスイス東部ザンクト・ガレンの市民団体だ。動物福祉、環境保護、代替医療の分野で活動する約80の団体・企業が同案を支持した。

発議委員会は、同意能力のない動物や患者への虐待は「許されない」と考えている。また、議論の中で「無数の高度な研究が、動物も人間も他の生物種について信頼性の高い見通しは提供できないことを立証している」と指摘する。同委員会は、人間に関する研究を禁止したいのではなく、患者に苦痛を与えない、患者中心の手法を組み合わせながら、科学を進歩させたいと強調する。

イニシアチブの発起人らによると、3R原則は半世紀以上も前から知られているにもかかわらず、動物実験の数は残念なことに過去25年間であまり変わっていない。そこで、同案がイノベーションを促進し、「研究、医学、スイスへの医療ツーリズム、人間の成熟に驚異的な進歩をもたらす」と発起人らは考えている。

誰が反対しているのか?

連邦政府と連邦議会は、有権者に「反対」票を投じるよう呼び掛けている。現行法は十分に厳しいとして、対案は出さなかった。動物実験の代替手段を開発・利用する研究にはより多くの補助金を給付するよう求めていた自由緑の党、緑の党、社会民主党を含む全ての政党がイニシアチブを過激と判断。同案は議会の採決で賛成票を全く得られず否決された。

高等教育機関の統括組織スイスユニバーシティーズとスイス国立科学財団(SNF/FNS)も反対の立場だ。スイス動物保護協会(STS/PSA)でさえ、イニシアチブは急進的すぎると考え、代替手段の一層の普及を優先している。

イニシアチブの反対派は、同案が可決されれば、数多くの薬品をスイスで製造したり、スイスに輸入したりできなくなると懸念する。「スイスは世界の医学の進歩から取り残されてしまう。そうなれば、人間や動物の健康に重大な影響が及ぶだろう」。また、議論の中で、治療法の研究開発はスイスにとって非常に重要だと強調する。もし、スイスが動物実験を完全にやめれば、スイスは研究開発拠点としての魅力を失い、数多くの科学研究プログラムや企業が他国に移転するおそれがある。

(仏語からの翻訳・江藤真理)


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