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スイスはどれくらい中立なのか?

「スイスの中立性は、NATOとのパートナーシップの基礎」

駐ベルギー・スイス大使とNATOスイス政府代表部大使を兼任するフィリップ・ブラント氏。ベルギー・ブリュッセルのオフィスにて撮影 Ambassade de Suisse à Bruxelles

ロシアのウクライナ侵攻を巡り、北大西洋条約機構(NATO)のスイス政府代表部大使を務めるフィリップ・ブラント氏が、スイスとNATOのパートナーシップの重要性について語った。同氏は、このパートナーシップとスイスの中立は完全に両立しうると考えている。

このコンテンツは 2022/03/17 08:30
Robert Nussbaum

swissinfo.ch:ロシアがウクライナに侵攻してから、NATOスイス政府代表部大使としてのあなたの役割は変わりましたか?

フィリップ・ブラント:私たちは非常に緊迫した状況に直面しています。NATOスイス政府代表部の役割は基本的に変わっていません。NATOによる決定と事態の評価を注意深く追っています。今回の危機で、NATOが安全保障政策の分野で中心的な役割を担っていることや、スイスのネットワークへの良好なアクセスが必要不可欠であることが明らかになりました。

スイスとNATOのパートナーシップは安定的で有意義です。研修など、スイスの関心が高い活動が活発に行われています。スイスとNATOは、25年にわたる実質的な協力によって築かれた深い信頼で結ばれています。貴重で非常に有益な相互の信頼関係です。

swissinfo.ch:ロシアの隣国、フィンランドやスウェーデンといったNATOの他のパートナー国は、元来軍事同盟のNATOに接近しています。スイスの一部の政治家が要求しているように、スイスに自国を守る目的でこれらの国々に追随する意向はありますか?

ブラント:スイスの中立性は、スイスとNATOのパートナーシップを支える基礎の1つです。したがって、NATO加盟は議題に上っていません。NATO諸国はスイスの立場を十分に理解し、尊重しています。

また、私たちは、フィンランド、スウェーデン、オーストリア、アイルランドといったNATOに加盟していない欧州諸国と、地政学的な環境や安全保障政策に違いはあっても、緊密に連絡を取っています。安全保障政策に関しては、連邦内閣と連邦議会による決定次第で、政府代表部の任務が決まります。

しかし、スイスとNATOのパートナーシップについて確実に言えるのは、スイス軍の協力体制―専門用語では、相互運用性―が大幅に強化されることです。スイスの防衛力と安全保障にとって当然、大きな付加価値になります。

NATOとつかず離れずの関係を維持するスイス

北大西洋条約機構(NATO)は冷戦のさなかの1949年に創設された。北大西洋を囲む地域に現在、30の加盟国がある。そこにはワルシャワ条約機構の旧加盟国も含まれる。旧ソ連に対抗する軍事同盟だったNATOはベルリンの壁崩壊以降、テロ、サイバー戦争、新技術、中国の台頭などの新しい課題にも取り組む、より包括的な欧州の安全保障を促進してきた。

NATOは2年前、エマニュエル・マクロン仏大統領に「脳死状態」と非難されたが、ロシアの脅威に直面し、軍事防衛機構として再び結束を固めつつある。スイスは96年から「平和のためのパートナーシップ」に参加している。オーストリア、フィンランド、スウェーデン、アイルランドも同じNATOのパートナー国だ。さらに、NATOは他にも20の国や組織とパートナーシップを結んでいる。スイスは特に、コソボにおけるNATOの平和維持活動を支援し、文民と軍事の両面で安全保障分野の専門能力を発揮した。スイスは中立の立場から、戦闘行為には一切参加しない。

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swissinfo.ch:スイスは欧州連合(EU)の対ロ制裁に追随しました。中立を放棄したのですか?

ブラント:スイスは中立を維持しています。EUの制裁措置に加わったからといって、何も変わりません。スイスは軍事的にはどの紛争当事国も支援していません。一方、スイスは中立政策を取っているため、非常事態の進展を考慮して対応する余地があります。ロシアによるウクライナへの軍事攻撃とそれに伴う国際法の基本的な規範に対する重大な違反は、欧州の近現代史の中でも特異です。スイスの中立性はEUの対ロ制裁措置と完全に両立しうるものです。

swissinfo.ch:元連邦内閣閣僚で右派国民党を代表する政治家、クリストフ・ブロッハー氏は、スイスはEUの対ロ制裁措置に参加することで、NATOEU側に参戦したと考えています。また、ロシアはスイスを「非友好国」リストに載せました。

ブラント:EUの対ロ制裁措置に参加しても、スイスが中立国の法的義務を逸脱することはありません。スイスは、2014年のロシアのクリミア併合以来、ロシア・ウクライナ関係に中立国の権利義務を適用しています。これは、ロシアがウクライナを軍事攻撃している間も適用されます。

要するに、中立とは無関心を意味するものではありません。中立性は、スイスが国際法違反を非難し、民主主義的価値を支持することを妨げるものではないのです。

swissinfo.ch:スイスは地理的に欧州の中心に位置するため、常にNATOの間接的な保護を頼りにしてきました。しかし、このような保護は、サイバー攻撃、ミサイル、核兵器といった現代の戦争技術に対しても有効でしょうか?

ブラント:現在、連邦議会で審議されている安全保障政策に関する報告書は、現代のさまざまな脅威が国境では止まらないことを明示しています。これこそが、他の国やNATOのような組織との協力が非常に重要な理由です。地理的な理由からスイスはNATOに守られているとする主張は的外れです。スイスもまた、欧州の安全保障に貢献しています。

swissinfo.ch:現状でこのような質問をするのは無邪気に見えるかもしれませんが、NATOとのパートナーシップの基本に立ち返るために、スイスは何ができるでしょうか?国際人道法の順守と民間人保護の観点からノウハウを提供することですか?

ブラント:国際人道法の順守はまさに、スイスがNATOとパートナーシップを結んで以来、積極的に推進してきた優先事項です。スイスは民間人の保護やサイバー分野の取り組みに参加しています。人工知能(AI)をはじめとする新しいテクノロジーは国際人道法に対する新たな脅威です。スイスはNATOとこの問題について定期的に情報交換を行い、協力に高い関心を持っています。

swissinfo.ch:スイスの努力も今日のウクライナでは水の泡なのでしょうか?

ブラント:ウクライナで起きている惨事は私たち全員に影響を与えるものです。スイスはロシアに対して明確に立場を表明しました。スイスはロシアによるウクライナへの軍事攻撃を強く非難し、ロシアに対し、事態の早急な鎮静化、全戦闘の停止、ウクライナ領からの軍の即時撤退を要求しています。

swissinfo.ch:それでもスイスは現地で具体的な活動を行うことができますか?

ブラント:スイスは人道面での活動に力を入れています。ポーランド経由でウクライナの人々に、医療品や生活必需品などの救援物資を届けています。これまでに4回実施しました。また、連邦外務省所属の人道支援部隊(SHA)他のサイトへのスタッフを現地に派遣し、救援物資の配布を行っています。

これと並行して、SHAの第2隊をモルドバに派遣しました。ウクライナ難民のニーズに応じて、医療品やテントを中心に救援物資を送る予定です。これらの直接支援に加え、スイスは赤十字国際委員会(ICRC)や国連などの人道支援団体にそれぞれ50万フラン(約6275万円)と25万フランの資金援助を行っています。

さらに、スイスは国連のウクライナ向け緊急支援基金に50万フランを拠出しました。これら直接・間接の支援は、スイスが実施する一連のウクライナ支援策の一部です。支援総額は約800万フランに達します。

フィリップ・ブラント氏略歴

フィリップ・ブラント氏(58)はブリュッセルで約3年前から駐ベルギー・スイス大使を務める。北大西洋条約機構(NATO)スイス政府代表部大使を兼任。同氏は1994年、連邦外務省に入省。その後、パリの経済協力開発機構(OECD)スイス政府代表部に勤務。在ギリシャ・スイス大使館では公使を務めた。ベルンの連邦外務省では、西欧・中欧諸国との二国間関係を担当。オランダ・ハーグのスイス政府代表部では、化学兵器禁止機関(OPCW)や国際刑事裁判所(ICC)との多国間関係に携わった。2015~19年、マダガスカルで自身初の大使職を務めた。ヌーシャテル州ラ・ショー・ド・フォン生まれ。ヌーシャテル大学法学部卒。

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(仏語からの翻訳・江藤真理)

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