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スイスはどれくらい中立なのか?

「スイスの中立には何の変化もない」国連代表

パスカル・ベリスヴィル氏は連邦外務省官房長を経て、現在はニューヨークにあるスイス国連代表部常駐代表を務める Copyright 2021 The Associated Press. All Rights Reserved

スイスはロシアへの制裁を科したことで、中立を放棄したとの認識が国際社会に広がっている。これは誤解だろうか?スイス国連代表部のパスカル・ベリスヴィル常駐代表に聞いた。

このコンテンツは 2022/03/21 08:30

swissinfo.ch:スイスが対ロ制裁を決定したことを受け、国外ではスイスが中立を放棄したとの認識があります。ここ数日はこの誤解を解くことに忙しいですか?

パスカル・ベリスヴィル:スイスの中立への理解は元々あまり広まっていません。スイスの中立は例えば国際赤十字の中立とは異なるといったことを、私たちは日頃から説明していく必要があります。それがここ国連本部での日常業務の一部でもあります。もちろん、現在の国際情勢は非常に緊迫しているため、説明することもいつもより増えています。

パスカル・ベリスヴィル氏 © Keystone / Alessandro Della Valle

swissinfo.ch:ですが、スイスは明らかに外国から中立国として見なされなくなった印象があります。ロシアはスイスを「非友好国」のリストに掲載しました。スイスの中立は外国から強制されたものでなく、外国から信用されることで成り立つものであることを踏まえると、これは憂慮すべき事態ではないでしょうか。

ベリスヴィル:スイスの中立には何の変化もなく、スイスが中立ではなくなったと認識されていることも確認できていません。国連憲章の武力行使禁止原則に対して極めて重大な違反行為が起きましたが、それに対するスイスの姿勢はここニューヨークの国連本部では概ね肯定的に受け止められました。

それは西側諸国からだけではありません。そのため、スイスは今後も信頼の置ける中立的な橋渡し役として認識されると私は考えます。その実現に向けて日々取り組んでいきたいと思います。

swissinfo.ch:制裁などで欧州連合(EU)に歩調を合わせると、スイスは国際的にEUの「準加盟国」として見なされ、中立国として認識されなくなりませんか?

ベリスヴィル:スイスは地理的、文化的、価値的に欧州の中心に位置し、20年以上、何度もEUの制裁に歩調を合わせてきました。

ここニューヨークでも、スイスは国連の西側グループに正式に入っています。しかし、EUの共同宣言には参加せず、時にはEUと途上国グループの間に入るなどして、橋渡し役を多く務めています。

スイスには欧州諸国とこのような違いがある、つまりスイスは「欧州的で連帯感はあるが、独立した存在」であるというのが、国連での一般的な認識です。これが利点になることもありますが、逆にこのためにスイスがEU加盟国ほど重視されないこともあります。

swissinfo.ch:紛争国間の仲介役を担うのにEU未加盟であることは、ウィーン、ヘルシンキ、ストックホルムなどの「ライバル」と差をつけるための「切り札」になるでしょうか?

ベリスヴィル:現在、世界のあちこちに紛争の火元があるため、できるだけ多くの力を投入する必要があります。(仲介役を巡って中立国同士が)ライバル関係になることに意味はありません。特定の状況では一方の国の強みの方が他方の国の強みよりも適していることがあります。国によって仲介役として提供できる内容が違うため、複数の国が仲介役を務める場合もあります。例えばある国は停戦合意のノウハウを提供し、別の国は自由で公正な選挙の実施を支援する、といった具合にです。

ノルウェーとスイスはEUに加盟していないため、いつもではありませんが、しばしば仲介を求められます。スイスには国連欧州本部をはじめ国際交渉の場であるジュネーブがあり、同時に人道的・革新的な環境が整っています。これは他の国にはない特色です。

swissinfo.ch:外国では、スイスは中立を隠れみのにして経済的な利益を守ろうとしていると考えられています。この状況下でスイスはどのように仲介役を務めていくべきでしょうか。

ベリスヴィル:経済関係者かどうかにかかわらず、スイスの個人や団体、法人がルールを守らなかった場合、スイスの評判が下がるリスクは常にあります。それは他の国にも言えます。ここ国連本部では、スイスは中立を隠れみのとして利用しているとは考えられていません。その逆に、スイスには高い信頼が寄せられています。

swissinfo.ch:しかし、対ロ制裁を決めた後も、スイスはまだウクライナ戦争の仲介役の候補に上がっていますか?

ベリスヴィル:事情があるため、それについて具体的なことは話せません。重要なのは、一刻も早く戦争を終結させることです。さもなければ現地の人々、国、地域、そして世界に甚大な結果がもたらされてしまいます。戦争終結に寄与できる国は、仲介役として歓迎されるでしょう。

swissinfo.ch:時代の転換期や新たな冷戦の可能性を示唆する声が聞かれます。西欧諸国は連携を強化していますが、スイスの立場は今後どうなるでしょうか?

ベリスヴィル:私が歴史家として言えることは、ある程度の時間を置かなければ時代というものは理解できないということです。私の考えでは、歴史はいつも流れの中にあり、時代という区切り目から出来ているというよりは、数々の動きから成り立っている。もちろん、戦争や危機などの具体的な出来事が起きた場合に迅速に対処できるよう、常に準備をしておく必要はありますが。

私たちは外交活動を通じて、この流れを自分たちの利益と価値観に沿うように導いていかねばなりません。国際社会が長期的に目指すべきことは、信頼を取り戻し、大きな不平等を是正し、偽情報に対抗し、安全保障制度を修復し、そして何よりも持続可能な目標を達成することです。

この世界が抱える大きなリスクを私が指摘したとき、あるジャーナリストは私を「カッサンドラ」(予言能力はあるが、予言を周囲に信じてもらえないギリシャ神話の女性)と呼びました。あれには怒りを覚えました。ギリシャ神話云々の話ではないのですから。現在顕在化しているリスク要因は、ダボスの世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表する「グローバルリスク報告書」に10年以上前から記載されています。深刻に受け止めるべきものなのです。さもなければ、子どもたちに美しい未来を残すことはできません。

パンデミック、戦争、飢餓などの深刻な危機が起こっている今こそ、ここ国連で世界的課題を克服できるよう国際社会が再び強く連携することを願ってやみません。

パスカル・ベリスヴィル:(Pascale Baeriswyl)

1968年にベルンに生まれる。バーゼル、ジュネーブ、パリの大学で学び、法学、歴史学、フランス文学、言語学で修士号取得。スイス国立科学財団で研究員、バーゼルの民事裁判所で裁判官を務めた後、2000年に外交官となる。

ベトナム、ブリュッセル、ニューヨークでの国外勤務後、13年にスイスに帰国し、連邦外務省国際法局副局長に就任。16年から同省官房長および同省政策局長。19年に連邦内閣から任命を受け、20年6月にスイス国連代表常駐代表に就任、現在にいたる。

出典:連邦外務省

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(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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