スイス、脱原発と省エネへ 国民投票で可決
21日、スイスで新エネルギー法の是非を問う国民投票が行われ、賛成58.2%、反対41.8%で可決された。投票率は、42.3%だった。新エネルギー法は、2050年までに脱原発を実現するため、再生可能エネルギーを促進し、省エネを推進する。
今回可決された「新エネルギー法」は、エネルギー転換を目指す改正法案で、「エネルギー戦略2050」をベースとし、スイス国内にある原子力発電所5基の稼動を順次停止しながら、原子力発電所の改修や新設を禁じる内容となっている。スイス政府は、同法案を2011年の福島第一原発事故直後から年月をかけて慎重に策定し、連邦議会は昨年9月に承認した。ところが、右派の国民党が同法案に反対したことでレファレンダムが成立し、今回の国民投票に至ったが、最終的には国民の支持を得た。
新法は、原発に取って代わる再生可能エネルギーを促進し、2035年までに、水力や風力、太陽光、バイオマスなど多様な再生可能エネルギー源を組み合わせる「エネルギーミックス」にし、太陽光や風力発電量を現在の4倍にして電気の安定供給を図る。2050年までに脱原発を達成するため、水力発電(2050年目標、約55.9%)と水力以外の再生可能エネルギー(同年、約30.6%)を拡大し、不足分を天然ガス・化石燃料発電(同年、約13.5%)で補う。
また、それと同時に、2035年までに年間1人あたりのエネルギー使用量を2000年比で35%減らす省エネと、エネルギーの効率的利用の促進を目指していく。節電を促しながら、建物や自動車、電気製品のエネルギー効果を高めて燃料消費を削減し、エネルギー消費全体を抑える。
(*図中の「毎時テラワット」は年間あたりの発電量)
今回この法案の是非で議論に挙げられたのは、消費者への負担。太陽光や風力発電のための補助金やそれらのエネルギーによる電力生産の少なさへの懸念から、消費者の電気料金が高くなるのではないかという不安の声があった。
法案に反対していた右派の国民党は、「エネルギー戦略2050」には2千億フラン(約22兆8694億円)かかり、電気代は4人家族では年間3200フラン(約36万円)に値上がりすると試算。投票前のキャンペーンでは、冷たいシャワーを浴びる女性のポスターを掲げるなどして、市民に反対を訴えていた。
一方で、脱原発と「エネルギー戦略2050」を進めてきた中心人物であるドリス・ロイトハルト環境・エネルギー相は、電気料金は1キロワット時につき1.5サンチームから2.3サンチームになり、 4人家族では年間40フランの値上がりになると試算。国民党の3200フランという数字は「全くの誤算だ」と主張していた。
国民投票で新法が可決されたことを受け、ロイトハルト環境・エネルギー相は、スイスメディアに対して「原子力エネルギーを放棄することになった歴史的な日となるであろう」と述べ、喜びを表明した。新エネルギー法は、2018年1月から施行される。
スイスと国境を接するオーストリアではすでに約40年前から、ドイツでは2022年に脱原発することが決まっている。スイスもヨーロッパに広がる脱原発の風潮をゆっくりと適用していくことになる。

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