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2021年11月28日のスイス国民投票

連邦裁判官を抽選で選出?スイスで国民投票へ

2019年8月26日、司法イニシアチブ(国民発議)の発起人アドリアン・ガッサー氏は、イニシアチブ成立に必要な署名をベルンの連邦内閣事務局に提出した © Keystone / Anthony Anex

スイスでは現在、連邦裁判官の選出方法を抽選方式にするよう求めるイニシアチブ(国民発議)が提起されている。連邦裁判官の政治的独立を守るのが狙いだ。スイスの制度に正当な批判をつきつけたものだが、国民投票で可決される見込みはほぼない。

このコンテンツは 2021/11/02 08:00

一部の国では禁止されていても、スイスでは制度の一部になっていることがある。スイスの裁判官は政党に属し、連邦議会で選出されるのだ。これを変えるため、1つのイニシアチブが提起された。

焦点は?

ここでの基本的な焦点は、スイスにおける司法の独立性だ。司法は政治と密接に絡み合っており、全ての裁判官にその影響が及んでいる。ただ今回のイニシアチブは最上位の裁判官、つまり連邦裁判官が対象だ。同案は、専門家委員会が資格や能力に基づいて候補者を指名した後、その中からくじ引きで裁判官を選出するよう求める。

また連邦裁判官の再任選挙を廃止し、任期を70歳までとする。重大な公務違反か病気などで業務を続けられない場合に限り、連邦内閣、連邦議会による裁判官の解任を認める。

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解決すべき問題は?

連邦議会はこれまで、政党の勢力に応じ連邦裁判官のポストを配分してきた。そのため、無所属の人が連邦裁判官に選ばれる可能性は皆無だ。

裁判官に選ばれた人は、世界でも例のない「委任税」と呼ばれる負担金を所属政党に払わなければならない。委任税は政党にとって重要な収入源だ。裁判官は委任税を納める代わりに、再任選挙で所属政党からの支持が期待できる。

司法が政治色を帯びているのは、この制度によるところが大きい。裁判官が所属政党に配慮した司法判断をしていることは、これまでの調査で明らかだ。これはイデオロギー的な理由だけではない。政党が裁判官に対し、好ましくない判決を出せば再選はない、とあからさまに圧力をかけてくることもあるのだ。

このような依存関係が成立していると、司法の独立性と三権分立に疑義が生じる。そうした点で、発起人たちはスイスの制度に対して正当な批判をしていると言える。司法の独立性に関しては、欧州評議会の腐敗防止国家グループ(GRECO)もスイスを非難する。だが、今回のイニシアチブが可決される見込みはないだろう。くじ引きという手法は極端すぎる、と世間では受け止められているからだ。

イニシアチブの推進者とは?

今回のイニシアチブを推進するのは、Lorzeグループの所有者で謎めいた企業家、アドリアン・ガッサー氏を中心とする市民委員会だ。スイスで最も裕福な企業経営者の1人である同氏は、スイスの司法制度を実際に経験してきた。だが、もちろん良い経験ばかりではない。同氏は、連邦議会は連邦裁判官を選出する際に「身びいき」していると非難する。

イニシアチブの主な論点

発起人たちの最大の目的は司法の非政治化だ。彼らによれば、現在の制度では三権分立が成立しておらず、司法は立法の延長線上にある。

発起人たちは、くじ引きなら司法の独立性を確保でき、最高裁判官に最適な人物を選ぶことができるという。また、所属政党ではなく、適正能力が選出での決め手となるうえ、裁判官候補の多様性も向上すると彼らは主張する。理由は、例えば女性も男性も同じ確率で選出される可能性があるからだ。

さらに、再任選挙を廃止すれば、連邦議会が解任投票をちらつかせて司法に政治的圧力をかけることもなくなるという。

イニシアチブへの主な反対意見

反対派は、イニシアチブの内容があまりにも極端だと主張。連邦議会では議員の多くが、現行のシステムはうまく機能していると考える。また、連邦議会で裁判官の選挙を行うことで、選出手続きに民主的な正当性が与えられるとの論調も目立つ。ある議員は「民主主義は宝くじに勝る」と端的に語っている。

連邦議会で行われる裁判官選挙では現在、年齢、性別、出身などの基準が考慮されており、司法における社会的バランスが確保できている、との意見も多い。

カリン・ケラー・ズッター司法相は、抽選方式の導入は現在のシステムとは相いれないとの考えだ。抽選方式はスイスの政治的伝統に反するものであり、立法機関では異質なものとされるという。同氏は、抽選方式では「最も有能な人ではなく、最も運の良い人が選ばれることになる」との見方を示す。

賛成派、反対派は誰か?

連邦政府と連邦議会はほぼ全会一致で今回のイニシアチブに反対し、対案も出さないと決めた。また、今のところ、すべての政党が否決を呼び掛ける。

現在の最高裁判官の構成

連邦最高裁判所の常勤裁判官38人のうち、女性は15人、男性は23人。母語を言語別にみると、イタリア語は3人、フランス語は12人、ドイツ語は23人。ロマンシュ語が母語の裁判官は現在いない。

連邦議会は、主要政党の議席配分を自発的に考慮して連邦裁判官を選出している。連邦裁判官の所属政党で最多は国民党(SVP、12人)、次いで中央党(8人)、急進民主党(7人)、社会民主党(SP、5人)。さらに緑の党(4人)、自由緑の党(2人)が続く。

出典:連邦最高裁判所他のサイトへ裁判所委員会他のサイトへ

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(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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