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国際都市ジュネーブ

変貌する国際都市ジュネーブ

国際機関が集まり、多国間主義の重要なハブである国際都市ジュネーブ。だが多国間主義は大きな圧力に直面し、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで会議の大半がオンラインで行われるようになった。そしてパンデミックの出口が見えるや否や、ロシアによるウクライナ侵攻という新たな危機に見舞われている。

このコンテンツは 2022/11/01
Skizzomat(イラスト)

コロナ下では、国際機関の中でも特に注目を浴びたのが世界保健機関(WHO)と世界貿易機関(WTO)だった。ウクライナ戦争では人権や人道問題に焦点が当たっている。ジュネーブにはこれらに取り組む国際機関が数多くある。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のトップにはチリ出身のミチェル・バチェレ氏に代わり、10月17日にオーストリア出身のフォルカー・トゥルク氏が就いた。トゥルク氏はロシアによるウクライナ侵攻をめぐり分裂状態にある国連や、世界中で起きる人権危機、中国との付き合い方など多くの課題が山積している。

バチェレ氏が退任間際の8月31日に発表した中国・新疆ウイグル自治区に関する報告書は物議を醸した。イスラム教徒など少数派民族に対し、中国政府による「深刻な人権侵害が行われてきた」と明記したためだ。西側諸国やNGOはこの問題をOHCHRの秋期セッションでの議論を求める決議案を提出したが、中国や中東・アフリカ諸国などの反対で否決された。国連の亀裂を改めて鮮明にし、OHCHRの抱える問題の根深さを物語る出来事だった。

一方、秋期セッションではロシアにおける人権状況の特別報告者を任命する決議が採択された。また3月に人権理事会が任命したウクライナ調査の独立委員会による中間報告をヒアリングした。これまでに集めた証拠に基づき、「戦争犯罪が行われた」と明言した。

国連人権理事会(HRC)も国際都市ジュネーブの中心的存在だ。「パレ・デ・ナシオン」と呼ばれる国連欧州本部に本拠を置く。4月7日に開かれた国連総会では、ウクライナを侵攻したロシアのHRC参加資格を停止した。独裁者ムアンマル・カダフィ政権による人権侵害で2011年に資格を停止されたリビアに続く2例目だ。

3月にはロシアの侵攻を批判する決議を採択し、ウクライナで人権侵害や国際人権法違反が行われているかを調べる調査委員会の立ち上げを決めた。

​​こちらの動画は、HRCの仕事ぶりを詳しく解説している。​​​​​​

食糧危機

ウクライナの難民や人道危機に対しては、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や世界食糧計画(WFP)といったジュネーブにある他の国連機関も救援活動に尽力している。戦争により世界の一部で食糧危機が深刻化。特にアフリカや中東では供給網が断たれ、価格の上昇や援助の資金不足が生じている。

赤十字国際委員会

ジュネーブ条約の守護者であり、ジュネーブに拠点を置く数多くの国際NGOの中で最も有名な赤十字国際委員会(ICRC)も、ウクライナ戦争で対応を迫られている。ICRCは紛争が起きたときに双方の意見を聞き、人命を救うことができるよう中立を堅持する。国際法上、国家はICRCに捕虜との面会を認めなければならないが、ウクライナのロシア支配地域では完全には面会できないのが現状で、批判の的となっている。

10月1日、ミリヤナ・スポリアリッチ・エッゲー氏がICRC総裁に就任した。クロアチア生まれでスイスの教育を受けたエッゲー氏は、​​​​ウクライナ戦争の真っただ中に采配を振るうだけではなく、世界で増え続ける複雑な紛争に対応する責務を負っている。
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新型コロナウイルスとWHO

世界の耳目がウクライナに集まるものの、新型コロナウイルスのパンデミックが終息したわけではない。世界がウイルスとの共存に歩み出す中、WHOはこれまでの教訓を得ようとしている。2021年12月に開かれたWHOの特別会合で、加盟国は次なるパンデミックに対応するための新たな条約作りに向け、議論を行うことで合意した。市民団体は条約作りへの参加を求めており、策定には数年を要しそうだ。

ジュネーブに本部があるWHOは1948年に設立。全ての人が必要な時に基礎的な保健医療サービスを受けられる環境づくりを促進するほか、国際基準を定め、公衆衛生上の緊急事態に対する国際的対応を調整することが同機関の役割だ。

WTOとワクチン

ジュネーブに本部があるWTOもまた、組織改革を求める声に直面している。同組織で昨年、最も賛否の分かれた議論の1つが、ワクチンの不平等分配を巡る内容だった。今年6月にジュネーブで開かれる閣僚会合では、危機の際にワクチンの特許権を保留すべきかどうかを巡る議論が決着を見た。だが先進・途上国双方にとって納得のいかない内容になった。

WTOは164カ国が加盟。長い交渉の歴史を持つ。

国際司法

国連では最近、国際司法調査官と専門家によるチームがシリア、ミャンマー、スリランカで発生した深刻な国際犯罪に対し、証拠収集と保存、そして刑事訴追の可能性を模索している。

「肥沃なエコシステム」

国際都市ジュネーブには国連欧州本部、40以上もの国際機関に加え、430を超えるNGOや179カ国・地域の外交使節団が集まる。また政府やNGO、国際機関のほか、ジュネーブを始めとするスイスの学術研究機関など、ある分野のさまざまなアクターが集まる「プラットフォーム」も17件ある。その1つ、ジュネーブ・サイエンス・ディプロマシー・アンティシペーター財団(GESDA)は、未来志向のスタートアップ企業が集まる「バイオテック・キャンパス」内を拠点とする。

GESDAは2019年に設立。スイス政府、ジュネーブ州、ジュネーブ市が資金提供する。2021年10月に初のサミットを開き、これまでの取り組み内容を初めて公開した。スイス政府は22年3月、今後10年分の出資を決めた。


(英語からの翻訳・宇田薫)

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