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国際司法枠組みでロシア指導者を処罰できるか?

ロシア軍は砲弾やミサイルでキエフの住宅を攻撃した。ロシアの指導者らは戦争犯罪で裁かれるのか? Copyright 2022 The Associated Press. All Rights Reserved

スイスを含む加盟39カ国の要請を受け、国際刑事裁判所(ICC)がウクライナ侵攻における戦争犯罪などの捜査に着手した。他の裁判所もロシアの軍事侵攻を受けたウクライナの提訴に目を向けている。ロシアとその指導者たちが、法廷で裁かれる可能性はあるのだろうか?

このコンテンツは 2022/03/19 09:00

ウラジーミル・プーチン大統領のような個人の刑事責任を問える国際裁判所はICCのみだが、ウクライナは国際司法裁判所(ICJ)や欧州人権裁判所(ECHR)にもロシアを提訴している。アムステルダム大学の国際犯罪法専門家であるロシア系オランダ人のセルゲイ・ワシリエフ氏は、ウクライナはロシアの侵攻後、あのような状況の中にありながら驚くほど迅速で印象的な「ローフェア(法律を武器とした戦争)」を展開しているという。同氏はswissinfo.chに、「おそらくシェルターの中でウクライナの国際弁護士たちが避難者の助けを借りながら働いた成果だろう」と話した。

問題は、裁判がどれほど迅速で効果的に進むかだ。そもそも裁判には時間がかかる。ICJは7日、ロシアが国連のジェノサイド条約(1948年採択)を故意に乱用し違反したと主張するクライナの公聴会を行った。ウクライナ側は、ロシアが軍事作戦の口実にしているのはウクライナ東部ドンバス地域で親ロシア派の集団殺害が行われているという虚偽の情報だと訴えた。7日に予定されていた意見陳述にロシア側は出廷しなかった。ICJは16日、ウクライナの主張を認め、ロシアに対して軍事行動を即時停止するよう命じる仮保全措置を出した。

ロシアは聞き入れるのか?ジュネーブ大学のマルコ・サッソリ国際法教授は疑問視する。「ロシアはもはや国際法など気にもしていないようだ」と言う一方で、「後に歴史修正主義者がプーチンは正しかったと言い出す可能性もある」ため、裁判所命令は歴史に証拠を残す意味で重要だと考えている。ローズ氏もICJの命令がロシアの軍事作戦の即時停止につながるとは期待していないが、停戦や和平交渉に一役買う可能性があると考える。

ECHRはすでにロシアに対し、「民間人及び民間施設への軍事攻撃とその他の国際人道法違反を行わないこと」を求める暫定措置を発表している。

国際裁判所

国際司法裁判所(ICJ)

所在地:オランダ・ハーグ。国連の最高裁判所で、国際条約や協定に基づいて国家間の紛争を裁く。個人を裁くことはできない。判決には拘束力があるが、強制執行のためのメカニズムを持たない。

国際刑事裁判所(ICC)

所在地:オランダ・ハーグ。ICCローマ規定(1998年採択)により2002年に設立。国連の司法機関ではないが、多くの国連加盟国が締約している。米国、中国、ロシア、ウクライナは非加盟。だが14年のロシアのクリミア併合を受けてウクライナはICCの管轄権を受け入れた。特定の状況下に限り、世界中で行われた戦争犯罪、人道に対する犯罪、ジェノサイド(集団虐殺)で個人を訴追できる。17年には「侵略犯罪」が導入されたが、限定的な条件下でのみ訴追可能。個人に対する国際逮捕状を発行できるが、独自の警察機構はなく締結国に逮捕の実施を委ねている。

欧州人権裁判所(ECHR)

所在地:フランス・ストラスブール。ベルギー・ルクセンブルクの欧州連合司法裁判所とは別。1959年に設立され、欧州人権条約(ロシアとウクライナも批准)に基づいて個人または国家の提訴を審理する。判決には拘束力があるが強制執行のメカニズムを持たない。

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ICCが捜査を開始

ロシアもウクライナもICC締約国ではないが、ウクライナは14年のロシアのクリミア併合を受けてICCの管轄権を受け入れた。同裁判所は、ジェノサイド(集団虐殺)、人道に対する犯罪、戦争犯罪の3つで個人を訴追できる。17年には4つ目の「侵略犯罪」を導入したが、当事国双方がICC締約国であるか、国連安全保障理事会からの付託がある場合にのみ訴追できる。ロシアとウクライナは締約国ではなく、ロシアは安保理で拒否権を持っているため、ICCはウクライナ侵攻では他の3つの犯罪についてしか訴追できない。

サッソリ氏は、プーチン氏は明らかに侵略犯罪を犯しているが、戦争犯罪を証明するにはその人物が意図的に民間人を標的にしたと直接結びつける証拠が必要であるため、はるかに立証が難しいと話す。ウクライナが市民に爆薬の自作を奨励したことも、状況をさらに複雑にしている。同氏は、「自作火炎瓶をロシア兵に投げつければ国際人道法で処罰の対象になる」と指摘する。また捕虜になったロシア兵をソーシャルメディアで「公開』したことも国際人道法に違反しているという。

だが、ロシアによる住宅への爆撃、禁止兵器の使用、核施設への攻撃などが報告されており、一層深刻な被害を引き起こす可能性がある。また、ロシア兵による性暴力疑惑もある。200万人を超えるウクライナ難民はそれぞれに、法廷などで訴えたい体験があるに違いない。

前出のワシリエフ氏は、ICCのこれまでのウクライナ問題への対応は「極端に遅いペース」だったと指摘する。14年に「予備捜査」を開始したものの、これまで優先事項ではなかった。だが、ICCのカリム・カーン検察官は2月28日に捜査開始を発表他のサイトへ。「ウクライナで戦争犯罪と人道に対する罪が犯されたと信じるに足る合理的な根拠」があると確信し、今後はウクライナ全土に捜査を拡大すると述べた。「我々の使命は重要かつ緊急であり、手段の不足を理由に制約されるものではない」とし、人的・物的リソースの充実を訴えた。

ワシリエフ氏は、難民が到着するポーランドなどの近隣諸国なのかウクライナ国内なのかは不明だが、ICCの調査官がすでに現地入りしていると考える。ICCにとって信頼性を高める機会になり得るが、慎重に進める必要があると指摘した。ウクライナには迅速に対応する一方でガザやアフガニスタン、ジョージアなどの問題に遅れを取り続ければ、欧米列強からの圧力があったと非難されかねないからだ。

プーチン氏は逮捕されるか?

サッソリ氏はICCがプーチン氏の逮捕状を出す可能性を問われ、ICCは過去にアフガニスタン戦争における米国や連合軍の戦争犯罪疑惑捜査などで、勇気ある行動をとってきたと答えた。だが、最も簡単に立証される戦争犯罪は、ロシア政府のプロパガンダによってウクライナをジェノサイドから救うために派兵されたと信じていた「哀れなロシア人新兵たち」による犯罪である可能性が高いと考えている。

ワシリエフ氏は、ICCがプーチン氏の逮捕状を出す時が来るかもしれないが、戦況悪化への配慮からそれが秘密裏に行われる可能性を指摘した。だがもう1つ問題があるという。プーチン氏はICC非加盟であるロシアの国家元首であるため、逮捕・起訴されない外交特権を持っている。したがってICCは加盟国に対しプーチン氏の逮捕を要請できない。ICCには警察機構がなく、加盟国に逮捕を頼らざるを得ない。

そのため、仮にプーチン氏が和平交渉でジュネーブを訪れたとしても、おそらく逮捕されることはないだろう。ワシリエフ氏は、辞任するか退陣に追い込まれない限りプーチン氏が拘束される可能性は低いと見ている。

普遍的管轄権と調査委員会

だが、「普遍的管轄権」の原則から、プーチン氏と側近らは渡航時に注意をする必要があるかもしれない。同原則を国内法に適用している国(スイスを含む)は、国際犯罪(集団虐殺、人道に対する罪、戦争犯罪)の容疑者を自国領土で逮捕し、国内裁判所で訴追できる。オランダはこの原則に侵略犯罪も含めている。

サッソリ氏は、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)もまた、特定の国に旅行したり、スイスで子供を学校に通わせたりスキーをしたりすることに、いつか逮捕されるかもしれないとの不安を感じているだろうと話す。先は読めないが、ロシア大統領への圧力は日に日に高まっている。

一方、国連人権理事会は4日、ウクライナにおける人権侵害及び国際人道法違反を調べるため3人の調査官から成る調査委員会の設置を決定他のサイトへした。調査を進め、「個人と団体」の責任を特定し、「将来の訴訟手続きのために」証拠を保全することなどが目的だ。国連人権理事会は裁判所ではないが、訴訟プロセスに必要な情報を提供できる。欧州安全保障協力機構(OSCE)もまた調査を行っている。

ICCはリソースと権限が限られていているため、多くの重大事件を扱うことはできない。ワシリエフ氏は、今こそ協調した行動が求められていると考えており、ブログには「説明責任を負う者たちは、ウクライナにおける核心的犯罪の証拠を収集し処理する取り組みに協力すべきだ」と綴っている。「正義の歯車は、ゆっくりではあるがすでに動き出している。これは慰めではなく、行動への呼びかけだ」

(仏語からの翻訳・由比かおり)

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