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リトミックを知っていますか?

聞いたメロディーを自分の感性で、動きに表現する生徒の1人、エッシマンさん ( 写真提供 : ダルクローズ学院 )

リトミックは幼児を持つ日本のお母さん方には、音楽に親しみながら集中力もつくというので人気がある。日本にリトミック教室は、個人経営なども含むと星の数ほどもあるという。

このコンテンツは 2007/02/02

しかし、このリトミックを創始したスイス人エミール・ジャック・ダルクローズのリトミック教育法確立の過程、またそのアバンギャルド性はあまり知られていない。

ウィーン生まれのスイス人、エミール・ジャック・ダルクローズ (1864〜1950 ) は11歳でスイスに戻り、ジュネーブの音楽学校コンセルバトワール ( Conservatoire ) で学ぶ。その後、作曲家、指揮者、音楽教育者としてコンセルバトワールの教授に任命され1901年頃、リトミック教育法を確立したといわれている。

トントントーンで水の中

ダルクローズ学院の広報を勤める孫娘、マルティンヌ・ジャック・ダルクローズさんが語ってくれた1つの逸話がある。

コンセルバトワールでソルフェージュ教育を始めたジャック・ダルクローズのもとにある日、知り合いの男の子がソルフェージュを習いにきた。ところが音感もリズム感もまるでダメ。

「祖父はレッスン後、その子の手を引いて公園を横切ろうとしました。雨上がりで、水たまりがいっぱい。するとその子が拍子をつけて、トントントーン、トントントーンと飛びながら駆け出しました。このリズムの最後のトーンはいつも水たまりの中でバシャーンでした」とマルティンヌさん。

次の日、ピアノを弾かせる時、「きのう公園で飛んだリズムでやってごらん」と言われた男の子は見事にそのリズムをこなしたという。こうした経験から「動いて覚え込んだリズムこそ自分の物になったリズム」という確信がジャック・ダルクローズに生まれる。

また「体を使うとリズムは覚えられる」ともいえる。ある日、ピアノの前でうまくリズムが取れない生徒が足を動かしているのを見て、まず立って動きながらリズムを取らせるとうまくできたという逸話もある。

こうして、「体で音楽を感じ自分のものにして、それをまた自己表現する」リトミックの教育方法ができあがった。

自己表現のプロセス

実際にダルクローズ学院のリトミック授業を覗いてみた。すると先生がピアノで奏でるメロディーを生徒はよく聞いて記憶し、今度は音なしで自分で踊りながらそのメロディーを再現している。 静寂の中で腕を振りながら動く生徒。床近く這うように動く生徒と様々。各々の感受性が違うからだ。しかし、リズムは皆同じ。

「自分の感受性で音楽を感じ、それを自分の体を通して自己表現するプロセスをリトミックといいます。それは自分と向き合い、自分の芸術性を発見するプロセスでもあるのです」とダルクローズ学院の現在の学長、シルビア・デル・ビアンコ氏。

リトミックが花開いたドイツのヘレラウ

ジャック・ダルクローズは、1901年頃このリトミック教授法を確立したといわれている。しかし、素足で自由に踊るリトミックは当時の音楽教育のなかでは異端児扱いされた。そのためコンセルバトワールで教えることも難しくなる。

1910年、コンセルバトワールを辞任したジャック・ダルクローズは、ドイツのドレスデンの近くの町ヘレラウ ( Hellerau ) に招かれ、音楽を中心とした総合芸術学校を創る。

第1次大戦勃発前1914年まで続いたこの学校は、ディアギレフ率いるロシアバレエ団や、ニジンスキーのみならず、バーナードショー、日本人では山田耕作なども訪れたアバンギャルドの文化センターであった。

スイス人の舞台美術家、アッピア ( Appia ) が作った階段状の舞台は、当時としては「革命的」なアイデアで、この舞台にマッチする踊りもまた「革命的」であった。

自分の心で感じたメロディーを自由に体で表現するするリトミックは図らずもクラシックバレエからモダンダンスへの道を開くことにもなり、このヘレラウの学校から多くのモダンダンサーが輩出したのである。

1915年から今日まで続くジュネーブのダルクローズ学院はこうした創造力を伝統として引き継ぐユニークな学院である。

swissinfo、里信邦子 ( さとのぶ くにこ )

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