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チュニジア、スイスの民主化支援実らず

チュニジアの首都チュニスの市場で。2022年4月撮影 Keystone / Mohamed Messara

チュニジアの民主主義が存亡の危機にある。カイス・サイード大統領が、苦しい戦いの末に勝ち取られた参政権をことごとく廃止しようとしているからだ。スイスはこの国の民主化を支援してきたが、目に見える形で残る成果は少ない。例外は、女性たちが意志を曲げない勇気を身に着けたことかもしれない。

このコンテンツは 2022/05/28 08:00
Henda Chennaoui, Balz Rigendinger

サイード大統領が率いるチュニジアは今、後退への道半ばにいると言える。チュニジア専門の政治学者モニカ・マルクス氏はこの国を「立憲主義から完全に離脱した元民主主義国家。サイード政権下で強固な独裁体制へと突き進んでいる」と表現する。*

チュニジアのサイード大統領 Copyright 2019 The Associated Press. All Rights Reserved.

民主化運動「アラブの春」、そしてベンアリ長期政権の崩壊を経たチュニジアは、新しい民主主義国家として期待を集めた。この国はアラブの春の発端であり、その後に真の転換を遂げた唯一の成功例だった。その期待が今や消えようとしている。サイード大統領は3月末、国会の機能停止に踏み込んだ。国会は、大統領令を使って単独統治を続けるサイード氏を阻止しようとしていた。同氏の単独統治は14年制定の民主的な新憲法を無効化した昨年7月から続く。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、国民は当初、同氏を支持していた。

国民の代表に逮捕状

サイード氏が法治国家の道から大きくそれたことは、この数週間を振り返れば明らかだ。同氏は、民主的に選ばれた国会議員の1人であるが自身にとって好ましくない人物を、「犯罪組織」を設立したとして即座に逮捕させた。最近では4月末に選挙管理委員会の権限を剥奪し、委員を好みの人物に置き換えている。

チュニスで大統領への抗議活動をする女性。2022年4月撮影 Copyright 2022 The Associated Press. All Rights Reserved.

サイード氏がこうした措置を取るのは、12月に選挙を実施するという公約を実現するためだ。同氏にとって不都合な政党や候補者が出馬する可能性はほぼなくなった。同氏は1年足らずで民主国家を独裁国家に変えてしまった。これらの大幅な措置が取られたのは今年の春だったが、チュニジアは既に昨年の英誌エコノミストの民主主義指数で順位を21位も下げた。

民主化支援に1億7千万フラン

よりによってチュニジアがこうした状況に陥っているとは皮肉だ。民主化の促進という憲法上の目標があるスイスは、11年に北アフリカで政治的革命が始まった当初から、数多くのプロジェクトを通じて北アフリカの民主化を支援してきた。19年にはチュニジアの選挙実施のために410万フラン(約5億3千万円)を援助した。その時の国会議員選挙と大統領選挙で、圧倒的な得票率で大統領に就任したのがサイード氏だった。憲法学の元教授である同氏が当選したのは、汚職撲滅を約束した同氏に国民が信頼を寄せたからだった。

2017年10月、チュニスを訪れたスイス連邦閣僚のシモネッタ・ソマルーガ氏(中央) © Keystone / Anthony Anex

スイスはチュニジアへの支援に1億7千万フランを注ぎ、女性の政治参画の促進を明確な目標に掲げていた。初めの状況は良かった。地方選挙における女性候補者の割合は厳密に50%と定められ、18年は候補者5万3千人超のうち半数が女性を占めた。しかし、アラブ諸国初となる地方レベルでの普通選挙から4年後の今、この国の民主主義に冷めた視線が向けられ、地方レベルでも民主主義が維持しにくくなった。大小の自治体で権力的な地位に選ばれた女性たちを取材すべく、現地へと向かった。

最初に訪れたのは西の内陸部にあるカセリーヌ。数少ないミックスカフェのテラスで出迎えてくれたのは、市内の最貧地区シテ・アヌールの選挙で当選したハイエット・ハリミ議員だ。同地区出身で、18年の選挙で左派政党連合フロント・ポピュレールの最有力候補だった。議会を構成する24人の議員のうち、区長を含む10人が女性だ。

ハイエット・ハリミ氏 swissinfo.ch

女性議員は「悪い種」

カセリーヌはチュニジアの中でも最も貧しい州の1つ。失業率は45%を超え、豊かな沿岸部と貧しい中心部の社会的格差を象徴する地域となっている。地域の窮状を顧みず、汚職と警察の暴力を助長してきたベンアリ独裁政権下では特に苦しい状況にあった。大統領がついに辞任したとき、この地域では喜びの声がひと際大きく上がった。しかし、後に補償を行うという国の約束は反故(ほご)にされ、地域の発展と豊かな生活が実現することはなかった。

ハイエット氏は、議会の第1回会議から男性たちに攻撃の的にされたと振り返る。男性たちからは「皆に感染する悪い種」と言われ、同氏に批判的な人からは「何事にも干渉しすぎ」と評された。同氏は「私はそれでもあらゆる公文書に首を突っ込んだ」と言う。

そして平手打ちに

同氏は市議会の資料を片端から調べていった。「市議会のメンバーとして出来ることは限られているが、市政府や行政による汚職や失策を追及していきたい」と。

しかしある日、会議の最中に他の議員から平手打ちされ、侮辱されるという事件が起きた。同氏は訴えを起こした。「もちろん、私を擁護すべき人から支援は受けられないが、このままにするつもりはない」。暴行をした人はいつか罪に問われるべきだと同氏は訴える。

経済的にも破滅寸前

ハイエット氏は当選以降、市政や行政に対して9件の苦情を申し立て、1件に関して小さな成功を収めた。それが、市全体で通りにチュニジアの著名な女性の名前をつけることだった。これは同氏が前から計画してきたことであり、実現できて誇りに思うという。しかし、この国は今はまるで別の時代のような様相を見せている。状況が激変したのは、政治面だけではない。

チュニジアは経済的にも破滅寸前だ。資金援助を縮小した米国は、サイード大統領が民主主義に復帰した場合のみ数百万ドルの資金を再び大々的に提供するとしている。欧州連合(EU)はそうした措置には踏み込んでいない。移民問題や、最近ではチュニジア経由でEUに運ばれるアルジェリア産ガスが念頭にあるためだ。しかし、もしEUがサイード政権に制裁を科すとしたら、スイスも反逆的な「民主主義の教え子」であるチュニジアを制裁すべきかという厄介な問いに向き合うことになるだろう。

2022年3月、チュニスの抗議運動 Keystone / Mohamed Messara

さらに、チュニジアはロシアのウクライナ侵攻の渦中に巻き込まれている。チュニジアの小麦価格は新型コロナの感染拡大時に既に倍増したが、小麦不足が深刻化する現在、価格はさらに上昇する見込みだ。小麦同様に原油、砂糖、食用油、医薬品など日常生活に関わるあらゆるものの価格が上がっている。サイード政権はこれまで、値上がりしたパンの価格を国の補助金で抑えてきた。しかし、インフレ率が8%に達した今、その措置も難しくなっている。チュニジアにはもはや、すべての対外債務を履行し、国民生活を長期的に安定させるための財力はない。そうでなくとも、サイード大統領には後ろだてがほとんどない。公務員の給料増加や、教育、インフラ、国民の健康への投資などの公約は既に破棄されている。

男性たちの反乱

2番目に訪れたのが、チュニジア南部の海岸沿いにある砂漠の村、ブーグララ 。この村を支えるのは今も漁業と農業だ。白壁の土蔵造りの家の中に女性をいつも閉じ込めておく慣習が残るこの村で、25歳のダレル・アティグ氏は村の新たな歴史を刻んでいる。女性初の村長である同氏も困難にさらされてきた。「私が当選した直後、年配の議員たちが抗議のために会議に参加しなくなった」

「タブーを破ってきた」と語るダレル・アティグ氏 swissinfo.ch

これらの議員にとって女性が、しかも若手が議長を務めるのは屈辱的なことだった。そこで議員たちは市役所の向かいのカフェで反対集会を開いた。さらに、村の職員たちはアティグ氏に従わないことを正式に表明した。しかし、今は大多数の役人、議員、村民から支持を得ていると同氏は語る。「私はタブーを破ってきた。これからも男女の役割分担を巡る固定観念に挑みたい」。同氏はこれまで、女性に安全なファミリーパークの設立や、毎週開かれる市場「スーク」を女性が利用しやすい場所へ移設することなどを実現している。

チュニス革命

チュニジア第2の都市スファックスのグレムダ地区のエムナ・ブアジズ区長も冷たく拒絶されてきた。

エムナ・ブアジズ区長 swissinfo.ch

ブアジズ氏は何回も告訴したにもかかわらず、女性がトップに就くのを嫌がる男性たちからソーシャルメディア上で脅迫や侮辱を受けている。同氏は「これだけの証拠があるのに、当局は誰も逮捕しようとしない」と言い、胸が痛むと語る。「これは私だけの問題ではない。地方政治における女性の立場にも関わることだ」

スアド・アブデラヒム氏 swissinfo.ch

最後に、首都チュニスで同市初の女性市長、スアド・アブデラヒム氏に会った。18年に同氏が当選したのはセンセーショナルなことだった。アラビア世界の主要都市で初の女性首長が誕生したからだ。チュニスではそれまで、首長になるのはいつもこの町の名門氏族出身の男性だった。アブデラヒム氏は「すべての攻撃に対する私たちの唯一の答えは、働くこと。そして、市民の暮らしが向上するよう具体的な成果を出すことだ」

*現在のチュニジアは元民主主義国家であり、憲法秩序が一切無視されている。サイード氏は強固な権威主義を目指し疾走している。

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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