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スイス製兵器をウクライナに輸出できないワケ

スイスの軍用車製造企業モワク(MOWAG)の装甲車ピラニア。ウクライナに同種の軍用車を提供しようとしたデンマークにスイスは待ったをかけた Keystone / Laurent Gillieron

スイスはスイス製兵器を輸入した国に対し、ウクライナへの譲渡を許さないという方針に固執している。国際的には批判も強いが、中立国家としてのジレンマに縛られている状態だ。

このコンテンツは 2022/06/10 10:00
Sibilla Bondolfi(情報提供・Marc Leutenegger&Sara Ibrahim)

スイス製の弾薬や軍用車をウクライナに提供したいというドイツとデンマークの申請を、スイスはいずれも却下した。国外では理解に苦しむ行為だ。

スイス連邦議会でも、軍需品輸出の規制緩和を求める声が上がっている。

緊急権発動?

中央党のゲルハルト・フィスター党首は連邦内閣が国家緊急権を行使して軍需法を改正し、ウクライナへの兵器提供を可能にするよう求めた。新型コロナウイルス感染症が急拡大した2020年、スイス政府は連邦憲法に定められた同権を根拠に感染措置を講じた。

ただし国家緊急権は、法規制を欠く事案に関して、国家の利益のために緊急措置として法の空白を埋める必要がある場合にのみ発動できる。兵器供給に関しては明確な法規定があるため、国家緊急権の条件を満たさない。

またスイスは中立法に基づき、国内法である軍需品法をウクライナがロシアよりも有利になる形に改正することは許されない。国家緊急権の発動の可否にかかわらず、スイスは中立法上の平等な扱いの原則を変えることができない。

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だがスイス政府はなお頑なだ。連邦内閣は3日、これまでの方針を原則堅持することを決めた。その根拠として中立法と軍需品法を挙げた。

平等な扱いを求める中立法

スイスは中立国という立場に縛られている。1907年のハーグ平和会議で成文化された中立法は、紛争当事者の一方だけに直接、または第三国を通じて武器を供給することを禁じている。

ロシアへの兵器供給は問題外として(中立国スイスはロシアを今回の戦争の侵略者と非難している)、根本的な疑問も生じる。早稲田大学のパスカル・ロッタ助教(国際関係・中立)は「紛争当事国の双方に武器を提供しようとする者が軍需企業以外にいるのだろうか」と指摘する。人道的には輸出は一切許されない。

中立法はまだ適用される?

一部の研究者は、国連憲章における武力行使の禁止と自衛権により、1907年のハーグ条約に定められた中立法は効力を失ったとの見解を示している。

国連制度は侵略国を悪者にし、他の全ての国家に対して被侵略国に兵器を提供する権利を与えるとの批判もある。このため一部の識者らは、中立はこうした制度にふさわしい場所ではないと訴える。

フランクフルト(オーデル)にあるヴィアドリナ欧州大学のシモン・ガウゼウェーク氏はそうした批判に反論する。「相互支援条項は権利であり義務ではない。国家は武力攻撃の被害者を助けることが可能だが、そうしなければならないわけではない。中立的に振舞うことが可能だ」

また中立国は、その中立性によって集団的自衛において他の国家を支援する権利を放棄しているとの主張もある。

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安全保障研究センターで核軍備管理を研究しているスティーブン・ヘルツォーク氏も同様の見解を示している。「軍事中立の理論を武器輸出の実態とつじつまを合わせるのは難しい」

軍需企業の利益

そもそもなぜスイスは兵器を輸出しているのか?その理由を理解するには、中立国の義務を振り返る必要がある。中立法は、中立国に対し自国の領土の不可侵性を保障する。スイスは、米国の保護を受ける非武装国家のコスタリカとは異なり、他国による安全保障枠組みで守られていない。スイスは、合理的な範囲内の武器で自国を守る必要がある。

安全保障の専門家リー・シャード氏は、「武装中立を守るため、スイスは国防として自前の武器や弾薬を製造している。外国に完全に依存しないようにする必要があるからだ」と指摘する。スイス政府によると国内市場が小さいため、国内の兵器産業は輸出に依存し、結果としてスイス製兵器が外国でも流通することになる。

(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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