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スイスの金業者は脱アマゾン宣言を実行できるのか

ブラジル・パラー州イタイツーバ地区、アマゾンのジャングル内の違法な金鉱山で金を探す男性たち。2020年8月21日撮影 Copyright 2020 The Associated Press. All Rights Reserved.

スイスの金精錬大手がブラジル・アマゾンの先住民族の領土で採掘された金を使用しないと宣言した。だがアマゾン産の金の流通データには謎も多く、宣言の実行には大きな課題が立ちはだかる。

このコンテンツは 2022/07/26 08:00
Dominique Soguel(本文), Pauline Turuban& Kai Reusser(図表)

この異例の声明の中で、スイスの精錬業者らは「ブラジル産を含め、違法な金の採掘・輸入・精錬を行わないために、金の追跡・特定を行い、技術的かつ人的に可能な必要措置を講じる」と述べた。また、ブラジルのジャイル・ボルソナロ政権に対し、先住民族の人々と環境保護のためにもっと働きかけるべきだと促した。

不認可の採掘職人による金の採掘は、アマゾンの森林破壊を助長し、金の抽出に使った水銀が土壌を汚染し、先住民族の土地を侵害する。ブラジルの輸出データや学術研究は、そうした金の多くが国際的な金取引の中心地であるスイスへ、またはスイスを経由して流れていることを示している。

6月27日付の声明に署名したスイス貴金属製造・取引業者協会(ASFCMP)のクリストフ・ビルト会長は「会員にとって、アマゾン産の金に手を出さないと宣言することは比較的容易だった。スイスの精錬業者が望むようなビジネスではないからだ」と語る。他には金精錬所のアルゴー・へレウス、メタロー、エム・ケイ・エス・パンプ、ペックス・プレシノックス、ヴァルカンビなどが署名した。ASFCMPは大手精錬所、スイスの銀行UBS、貴金属を扱う小規模企業など13社が加盟する。

5月には、人権NGO被抑圧民族協会(STP)が、アマゾンの先住民族コミュニティーのリーダーたちと金産業の代表者らの会合を取り持った。先住民族が「ガリンペイロ」と呼ばれる不法採掘業者から受ける暴力や、先祖代々の土地での採掘を許可する政府法案が環境に与える影響などが議題に上がった。

アマゾンからスイスに継続的に金が流れていることを示すブラジルの輸出データについては、両者の見解が平行線をたどった。

会合に参加したビルト氏は、このデータの正確性を疑問視する。

「正直なところ、ブラジル側の輸出データや統計データが正しいものかどうかは分からない」とビルト氏はswissinfo.chに語った。「私が言えるのは、スイスの精錬業者はアマゾン産のそうした原料を使用していないということだ」

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ブラジルのデータによると、2020年と21年にアマゾン川流域のブラジル北部パラー州イタイツーバからスイスに輸出された金は5トンに上る。STPのクリストフ・ヴィドマー共同会長は、こうしたデータはスイス側の統計の透明性向上が急務であることを如実に語ると主張する。スイスは、各国からの月別の金輸入量しか調査していない。STPは秘密を保持しようとする精錬業者を相手に、金の出所に関するより詳細な開示を巡り法廷闘争を続けている。

この5トンの金の謎に加え、ヴィドマー氏はイタイツーバからスイスへの金の輸出が21年8月以降途絶えている点にも疑念を投げる。チューリヒ空港の税関は同月、ブラジルのサンパウロからチューリヒを経由してドバイに渡航しようとしていた人物から、20キロの金を押収した。ドバイは、危険度が高い金の取引のハブとして名高い。同事件はスペインの新聞バングアルディアにスクープされ、現在も捜査中だ。ヴィドマー氏は、不法な金をスイスのものだとドバイで申告可能にするために、スイスをホワイトウォッシング(訳注:犯罪行為や不都合な事実を不正な情報操作によって隠蔽すること)の中継地点として利用したものではないかといぶかる。

鍵となる透明性

ヴィドマー氏は「取引をクリーンなものにし、違法な活動や環境を破壊する活動、また人権を侵害する生産活動を防ぐために、透明性は非常に重要だ」と語る。

ブラジルにとって、スイスはカナダに次いで最も急成長している輸出相手だ。世界の貿易データを分析する経済複雑性観測所によると、20年のブラジルからカナダへの金輸出額は18億9千万ドル(約1950億円)で、スイスは10億1千万ドル(約1040億円)。第3位は3億3800万ドル(約350億円)のアラブ首長国連邦だった。

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ブラジルは生態学的にバランスの取れた環境を憲法で保障し、多くの条約で先住民族のコミュニティーを保護している。しかしこの数十年、こうした権利は国際的に急増する金の需要に押され抑圧されてきたアマゾンの森林破壊のおよそ10%が違法な金採掘を原因とする。

ブラジルの検察官や研究者たちは、ブラジルの金のサプライチェーンをいかに浄化するかという問題に取り組んできた。環境NGOインスティトゥト・エスコリャスによる調査は、ブラジルは15年〜20年に、違法と裏付けられる金229トンを取引していたと結論付けた。国内生産量のほぼ半分に値する量だ。同調査は、先住民族の土地や保護区と重複する採掘権(訳注:登録を受けた区域で鉱物を採掘する権利)や、採掘の証拠はないが金のロンダリングに使われた可能性が高い「ダミー採掘権」を利用して産出された金を調べたものだ。

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シンクタンクのイガラッペ研究所による別の調査も「ブラジルのアマゾンでは金の違法採掘がまん延している」と指摘する。同調査は、アマゾン地域を構成する9州内に321の違法な採掘場があると突き止めた。アマゾン地域はポルトガルほど大きく、川の支流が道路を兼ねており、ブラジル警察による取り締まりを難しくしている。加えて、アマゾンの保護はボルソナロ政権にとって優先事項ではなく、同政権は憲法で保護されている先住民族の土地を開発できるようにする法案を提案した。

スイスの精錬業者などブラジルから金を輸入する関係者にとっての課題は、違法に採掘された金が容易に、かつ早い段階で合法的な市場に流入してくることだ。その理由は、金の原産地の申告時、販売者の善意が前提とされることにある。ブラジルでは警備会社でさえ不正申告で摘発されている。

熱帯雨林の中心に位置するマナウス地域の連邦検察官で、イガラッペ研究所の調査に協力したアナ・カロリナ・ハリウク・ブラファンサ氏は「金は、その経済循環の最初の段階である意味『合法化』されている」と述べる。「ブラジルからの金の輸入業者にとって、現状、その金がアマゾン産でないこと、または違法に採掘されたものでないことを証明するのは非常に難しい」

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英語からの翻訳:アイヒャー農頭美穂

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