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スイスの時計メーカーは21世紀を生き残れるか?

スイスの時計業界 コロナ禍で不均衡広がる

世界の高級時計市場をリードする4大独立系ブランドの1つ、オーデマ・ピゲ Thomas Kern

昨年、史上最大級の経済ショックに見舞われたスイスの時計業界は、中国の高い需要に支えられて回復しつつある。だが今回の危機で、利益の大半を得ている一部のブランドとその他のブランドの間で、業界内の不均衡がさらに広がっている。

このコンテンツは 2021/11/20 08:30

世界中で人々が外出を制限され、海外旅行業界が停止し、商店が閉鎖される中、新型コロナウイルスは時計業界にも深刻な打撃を与えた。スイスの主要産業である時計産業は生産製品の約95%を国外で販売しているが、2020年の輸出額は09年の世界金融危機による景気後退時の落ち込みに匹敵する、22%減となった。

だがスイスの時計業界は今年に入って徐々に回復している。今年1~9月の時計輸出額(161億フラン、約1兆9890億円)は、パンデミック(世界的大流行)前の19年同時期の輸出額を1%上回った。中国と米国への輸出額はそれぞれ22億フランで、回復の原動力になっている。その一方で欧州の主要市場はまだパンデミック以前の水準に戻っていない。

コンサル大手デロイトで時計業界を担当するジュール・ブードラン氏は、「すでにパンデミック以前も、世界の高級品需要の中で中国の消費者は非常に大きなシェアを占めていた。中国人はアジアや欧州、米国を旅行する際に高級品を購入することが多かった。中国政府はそういった購買行動の一部を国内に呼び戻そうと、免税などの優遇措置を導入し始めていたが、コロナ危機で海外渡航が制限されたことで、さらにその傾向が強まった」と指摘する。

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時計業界内の不均衡

だが、この9カ月間の堅調な回復の陰で、時計業界内には大きな不均衡が見られる。輸出増になっているのは主に販売単価7500フラン以上の高級時計で、20年はスイス時計輸出額の約7割を占めた。専門家らによると、この傾向は今後も続くという。

また、業界成長の大きな利益を受けている一部のブランドへの集中が進んでいることも指摘されている。19年には、世界4大独立系ブランドのロレックス、パテック・フィリップ、オーデマ・ピゲ、リシャール・ミルが約90億フランの売上高を達成。投資銀行モルガン・スタンレーとスイスのコンサル企業リュクス・コンサルトの分析によれば、4ブランドだけで市場シェアの35%、業界利益の約55%を占めた。ブードラン氏は、「20年のコロナ危機で、集中の傾向がさらに強まった。消費者は、先行きが不透明な時期には特に安全資産に目を向けるようになるからだ」と述べる。

結果として、この4大独立系ブランドの代表的なモデルは投資商品としての価値が高まり、流通市場では価格が高騰している。英オークションハウス、フィリップスの時計部門専門家、ジェフリー・ヘス氏は米日刊紙ニューヨーク・タイムズに対し、「これらのブランドの時計は、今では普遍的な流動資産とみなされている。もちろんどの時計も良い作りで認知度も高い。だが、買い手も売り手も、4大ブランドの時計を認知された『貨幣』として評価しているため、コレクターはこれらのブランドの時計を安心して購入できる」と述べている。

スイス時計を求める中国

時計業界に特有の現象として、大手時計グループの傘下にある時計メーカーに比べ、独立系メーカーが好調なことが挙げられる。19年、スウォッチ、リシュモン、LVMH、ケリングの4大時計グループは、世界の売上高の約55%を占めたが、利益は43%に留まった。フォントベル銀行の時計業界アナリスト、ジャン・フィリップ・ベルチ―氏は、「独立メーカーは起業家精神をキープしており、大手グループに比べリスクを厭わず、イノベーションへの意欲も高い。また、長期的ビジョンと独自の文化を持っている」と指摘する。

だが大手高級ブランドグループも負けてはいない。オメガとロンジンで中国市場をリードするスウォッチ・グループや、カルティエのリシュモン・グループ、ウブロのLVMHグループもまた、アジアの強力なパートナーに支えられ、貪欲な中国需要に応えられる優位なポジションにある。

リュクスコンサルトの時計業界アナリスト、オリヴィエ・ミュラー氏は、「将来性があるのは、ブランドの認知度が高く、大規模なプロモーションに投資できる資力のあるブランドだ。製品よりもブランド名が重視される傾向は、高級品業界の潮流に沿っている」と指摘する。

ニッチな市場で裕福なコレクターをターゲットにする小規模の独立系時計ブランド(カリ・ヴティライネン、F.P. ジュルヌ、ローラン・フェリエ、H.モーザーなど)もまた、窮地を脱することができそうだという。

産業構造への脅威

だが、低価格なエントリーモデルやミドルレンジモデルを展開する多くの時計メーカーの状況は芳しくない。ミュラー氏は、「『スイスメイド』の350のブランドのうち、好調なのは約2割。残りの8割は将来が非常に危ぶまれている」と述べる。

特に200フラン以下の時計を販売するブランドの状況は厳しい。クオーツ時計の生産量は11年から1200万個超の減少となっているが、コロナ危機でさらに加速した。

売り上げ減少の続くスウォッチを始め、低価格帯の時計はスマートウォッチとの競争に加え、流行に敏感な欧州の若者の間で人気の海外ファッションブランド(ゲス、プーマ、アルマーニなど)の成功の影響も受けている。

スイスの産業構造、特に時計産業に大きく依存する多くの下請け企業にとって、この状況はリスクになる。ボードラン氏は、「80年代初めのクオーツ危機の後、業界は低中価格帯のクオーツ時計を大量生産して再生した。それが機械式時計の発展のための確固たる基盤となり、高級品業界への扉を開いた。このままでは、業界が弱体化し雇用やノウハウが失われ、その結果イノベーションにブレーキがかかってしまう可能性がある」と懸念している。

(仏語からの翻訳・由比かおり)

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