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スイスが対外援助部門を統合 どんな影響がある?

2010年ハイチ地震で負傷し手当てを受ける子供 Keystone / Michael Fichter Iff

スイス連邦外務省は、年内に人道支援と開発協力の2部門を一本化する。それにあたって火種となりそうなのが、前者がめったに正当化を必要としないのに対し後者はその逆、という点だ。組織が統合されれば様々な批判は双方に向かう。スイスが誇る人道主義的伝統に対しても、今後、圧力が強まるのだろうか。

このコンテンツは 2022/02/02 08:30

スイスは2010年のハイチ地震で、学校の再建を支援するために耐震構造の専門家グループを現地に派遣し、様々なタイプの校舎の建設基準に関する情報を当局に提供したり、石工の養成訓練を行ったりした。

これは開発協力だったのか?答えはノーだ。スイスでこれは人道支援とされている。

別の例を挙げよう。スイスは1990年代末、内戦下で一触即発の空気が流れていたスリランカで演劇プロジェクトを支援した。ベルトルト・ブレヒトの戦争劇「肝っ玉おっ母とその子供たち」をタミル語とシンハラ語で上演するというものだ。その狙いは、平和的解決なくして国の前進はない、というシグナルを国民に送ることにあった。

これは、スイスにとってどういった支援だったのか?答えは開発協力だ。平和なくして開発なし。スイス側は、そう考えた。

こうした区分の仕方に違和感を持つ人は少なくない。スイスの6大非政府組織(NGO)の統轄組織「アリアンス・シュド」が行った内部調査でも、ほとんどの人が人道支援と開発協力の区別を難しいと感じていた。多くの人はこの2つを混同し、NGOの活動をより人道支援寄りだと認識する傾向にある。

開発政策と第三世界運動を研究し、現在はオーストリア・インスブルック大学でヨーロッパ民族学を教えるスイス人歴史家のコンラート・クーン氏は、「エンパワメントやグッドガバナンスをテーマとした演劇プロジェクトをミャンマーで行うことと開発協力とを結びつける人は、おそらく皆無だろう」と述べる。開発協力は人道支援から派生したものだが、今日では両分野が相互に影響するケースが増えている。そのため、一般の多くの人にとって、この2つの分野を区別することは難しいという。

統合は国際的な流れ

人道支援と開発協力の一体化は、実は机上の論議からではなく、実践の中で進められてきた。

例えばハイチでコレラが流行した際に国際社会が行った人道支援は、短期的な医療供給だけでなく給水システム全体に取り組むというものだった。そこまでして初めて、支援は持続的なものとなる。

ハイチの旧国連軍基地付近を流れるメイユ川。ネパールから派遣されたブルーヘルメット隊がハイチにコレラを持ち込んだと推測されている。貧しい住民が洗濯や入浴、飲用に利用する川に部隊の排泄(はいせつ)物が流され、コレラ菌が広がった Copyright 2020 The Associated Press. All Rights Reserved

逆に、通常の開発援助が行われていた国で突然戦争が始まることもある。スイスの開発機関で長年働いていたマルクス・ハイニガー氏は「かつて開発協力は、事態が『過熱する』と撤退していった」と振り返り、現在では脆弱な状況下でも活動を続けることが求められていると述べる。30年前に比べ紛争が長期化し、多くの地域が不安定さを増している現状では、なおさらだ。

同氏はまた、こうした変化はスイスだけでなく国際社会でも以前から論議の対象となっており、縦割りから脱して組織を再編成すべき時期に来ていると言う。

再編成されるスイスの開発機関

連邦外務省開発協力局(DEZA/DDC)では、今年9月までに組織改編を行い、人道支援部門と開発協力部門を統合する。

レア・チュルヒャーDEZA広報官は取材に対し「DEZAの人道支援と開発協力は歴史的要因から制度上分かれているが、これは次第に意味をなさなくなっている」と書面で回答を寄せた。DEZAは2019年、外部機関による評価他のサイトへで、組織を変化に対応させるべきだと提言を受けた。しかし、人道支援と開発協力の予算枠は依然として統合されていない。

DEZAによると、人道支援と開発協力の調整はスイスの現地協力事務所が行っている。「今後はパトリツィア・ダンツィDEZA新局長の下、危機が長期化している地域における人道支援と開発協力については、ベルン本部で組織的に統合させることになる」(チュルヒャー氏)。「したがって、例えばマリにおける人道支援と開発協力の調整はベルン本部に一任される」。これによって、国際協力のための様々な手段を中間地点を通さず必要に即して投入できるようになり、現場ニーズへの対応の最適化が図れるという。

評価の違いが生む火種

この(人事異動を伴う)再編成で動揺が生じるのはDEZA内部だけではない。政治的にもインパクトがある。この2つの対外援助には全く異なるイメージがあるからだ。

被援助国側にしてみれば、開発協力は彼らに一定の条件を課した上で政治や社会の構造を変えようとするもの。人道支援はそれよりも中立的であるため、この2つがないまぜになれば、人道支援が争いの当事者から受け入れ拒否される危険もある。

一方、ドナー国側で開発協力より人道支援を好むのは右派政党だ。前出の歴史家クーン氏は「人道支援は、短期的な緊急支援のため、国内で論議を呼ぶことは少ない」とし、一方で開発協力とその効果を巡っては批判が集まりがちだと説明する。

国民党所属のバルバラ・シュタイネマン国民議会(下院)議員も、右派陣営から批判の声を上げる1人だ。同氏は、スイス当局の開発援助における優先順位の設定は場当たり的だとして「首をかしげるようなプロジェクトや腐敗した国家、国際会議やジョージアの農業におけるジェンダープログラムなどといったもののために、我々は何十億フランと国外に送金している」と断じる。

このように右派政党が肩入れする人道支援だが、組織の一体化にあたっては開発協力よりも弱い位置に甘んじるとみられる。スイスの人道支援部隊は民兵隊で、土木技師、水力工学専門家、医療専門家など専門的人材の一部は期限付きの派遣だ。また、地震被災地で支援を行うスイスレスキューチェーンは、今や活動機会がほぼ無いとして外部機関による評価報告書他のサイトへで廃止まで提言された(スイス当局は当面、廃止はしないと決定)。

連邦外務省によると、DEZA職員が人道支援と開発協力を交互に担当することは既に慣習化している。2つの文化が統合されると言っても、既に両者間には緊密な協力関係がある。組織改編で期待されるのはシナジー効果の一層の向上だ。

とはいえ、統合の結果、開発協力が人道支援を事実上「吸収する」ことになりはしないだろうか。だとすれば国際協力に対する右派陣営からの攻撃は、今以上に激しくなるだろう。

競合は無意味

一方、伝統的に開発協力に好意的な左派政党の考えは異なる。例えばスイスの開発協力財団「スイスエイド」で理事を務める外交専門家クリスティーネ・バダチャー氏(緑の党)にとって、あらゆる対外援助は重要であり、互いに対立させるべきものではない。

「災害後の人道支援は重要とはいえ短期的。開発協力は災害を二度と起こさないための長期的な体制作りに役立つ」(バダチャー氏)

つまり人道支援は、レスキュー隊のように迅速かつ緊急に、必要とされる場面で展開する。一方、開発援助は理学療法のようなもので、計画に沿って長期的に、経緯を観察しながら行う。健康の回復には両方が必要だ。

実際DEZAでも「ツールボックス」という言葉が使われているように、異なるタイプの支援手段を最適な形で連動させ、状況に応じて同時使用することが望ましいとされている。元DEZA職員のハイニガー氏が言うように「当事者にとってはどんな名目で支援されるかは関係ない。肝心なのは支援が実行されること」だ。

スイスの様々な対外支援

人道支援は、災害や戦争、危機において公平に人命を救助し、苦しみを軽減させることを目的とする。例:地震被災者の捜索、飢餓地域における食料配給、戦争負傷者に対する医療の提供など

開発協力は、経済発展を通じた貧困撲滅や人権と民主主義の推進を目的とする。例:養蜂家の育成とハチミツ販売の支援、子供への抗生物質処方を減らすためのデータ収集、識字率向上プログラムや女性の地位向上、気候保護プロジェクトなど

経済開発協力は、現地及びスイスの民間セクターと協力しながら経済活性化を図る。連邦経済省経済管轄局(SECO)が担う。例:現地中小企業への融資、熟練労働者の研修や進学の支援など

東方協力、あるいは移行支援は、旧ソ連諸国や西バルカン地域において、社会的市場経済、司法強化、民主主義を促進するもの。例:自治体職員の研修、公会計の財務に対する助言、刑務所制度の改革など

平和構築は、紛争原因の解消や、暴力や戦争、圧政からの個人の保護を目的とする。分野によっては外交活動とも重なり合う。例:国際的ガイドラインの起草、選挙監視、仲介、または移行期正義(社会における深刻な人権侵害や組織的暴力といった過去への取組み)への協力など

出典:連邦外務省(EDA)他のサイトへ

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(独語からの翻訳・フュレマン直美)

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