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シンプロン・トンネル開通100周年

北側の入り口でシンプロン・トンネルについて熱っぽく語るマックス・ベレーニマンさん Keystone

1906年5月19日、シンプロン・トンネルが開通した。当時から、時代を先取りした技術が使われていることで高く評価されていたトンネルだが「今でも『トンネルのマスター』と格付けされる」と語るのは、シンプロン・トンネルで30年間働いたマックス・ベレーニマンさんだ。

このコンテンツは 2006/05/23 15:31

外国のトンネルの専門家が手本にしたというシンプロン・トンネルは、80歳になったベレーニマンさんにとっても特別な存在なのである。

第1期工事は1898年から1906年までかかった。当時トンネル工事に携わった技術者は「幻のような建築物」を作ったのだとベレーニマンさんは、尊敬の念を持って評価する。日本の上越新幹線の大清水トンネルが開通する1979年まで全長19.8キロメートルのシンプロン・トンネルは世界一長いトンネルとしても有名だったことは、彼にとってはあまり重要ではない。

岩の圧力こそ安全の要

いまでも、鉄道で働く機械工、機関士そしてエンジニアたちは、トンネルの建築構想や工事をやり遂げようとする当時のチームの意気込みについて語るとき、最上級の形容詞を使う。

トンネルの上には地上まで2135メートルの岩が乗っている。シンプロン・トンネルは、それより20年前に掘られたゴッタルド・トンネルより、400メートルも深いところにある。この深さがトンネルを掘るのを困難にした。当時は、想像を絶する重さの岩の圧力により、トンネルが崩れるだろうと言われていた。しかし、シンプロン・トンネルを計画していた専門家は、別の意見だった。岩が十分頑強であれば、その圧力こそがトンネル工事を支えるというのだ。シンプロン・トンネルを貫通させる論理が、現在進行中のアルプス縦断鉄道計画のレッチュベルク・トンネル(地下2000メートル)やアルプ縦断鉄道計画のために新しく掘られたゴッタルド・トンネル(同2500メートル)の工事を支えてきたのである。

ベレーニマンさんは「ブリーク(Brig)とイタリアのイセッレ(Iselle)間には2本のトンネルが掘られていることが、まさしく幻のような建築物であると呼べる理由だ」という。トンネル内で事故があった場合、もう一本のトンネルが救助活動に使われる。現在なら当り前の考え方が、100年前にすでに実行されていた。

ベレーニマンさんとトンネル

1958年からトンネルで働くようになって、ベレーニマンさんの生活は全てにわたって変わった。頭上にそびえ立つ岩が厚いほど、より圧力がかかる。トンネルの中は気温が上がり、湿度も高くなる。冬でもトンネル内の気温は28度で、湿度は100%もある。こうした環境は、架線やトンネルを走行する電車にも影響する。シンプロン・トンネルは操業当初から電化されていたが、当時のスイス連邦鉄道は、トンネル内の悪条件と戦い続けてきた。

設備は通常より早く劣化し、故障した。このため「シンプロン安定化」なる、連邦鉄道と列車製造会社との共同開発が進められたのである。ベレーニマンさんも開発に携わった一人だ。シンプロン安定化プロジェクトは「外国のトンネル技術者が大いに参考にした」とベレーニマンさんは胸を張る。

ユーロトンネルにも一役かう

1965年、欧州大陸とイギリスを結ぶユーロトンネルの建設のため、2本のトンネルが渡り廊下のような通路で繋がっている部分での空圧テストが行われた。他にも1980年代には、欧州におけるトンネル工事のために、さまざまなテストがシンプロン・トンネルで行われたのである。

ベレーニマンさんのシンプロン・トンネルの思い出は、よいことばかりではない。数え切れない事故もあった。1971年に起こった事故では、イタリア人5人が死亡した。事故が発生するたびに、トンネルの設備が見直されていったという。

シンプロン・トンネル開通から今年で100年。スイスは、貨物輸送を鉄道が主役となってこれを担うようにする方向にある。たとえば、アルプス縦断鉄道計画。その目的は、トラックによる貨物輸送を鉄道輸送に切り替えることだ。レッチュベルク線やマッターホルン−ゴッタルド線でも働いたベレーニマンさんは現在、アルプス縦断鉄道が完成し、公共交通がさらに発展することを心から望んでいる。

スイスインフォ、トマス・ツィンメルマン(スイス通信) 佐藤夕美(さとうゆうみ)意訳

補足情報

シンプロン・トンネル開通100周年を記念し、5月19日には公式祝賀会が行われ、記念切手も発行された。
トンネルはの第1期工事は1898〜1906年に、第2期工事は1912〜1921年に行われた。スイスのブリーク(Brig)からイタリアのイセーレ)まで全長19.8キロメートル。
日本の上越新幹線の大清水トンネルが開通する1979年まで、世界一長いトンネルだった。
現在、毎日100本以上の電車が通過する。

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キーワード

シンプロントンネル100周年展
バーゼル自然史博物館
Naturhistorisches Museum Basel
Augustinergasse 2
4001 Basel
6月1日〜10月29日

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