アラブ諸国の民衆革命 スイスは新たな対外戦略を決定
経済協力に本腰を入れ、不正蓄財の返還を推し進め、難民問題に集中して取り組む。この3点が北アフリカおよび中近東に対するスイスの外交政策の重点だ。
チュニジアの首都チュニスで5月1日から3日間にわたり、スイスの外交に関する会議が開催された。スイス政府が3月中旬に議決した基本戦略に基づき3分野の外交戦略が具体化された。
「この三つの重点を簡潔に言えば、経済協力、不正蓄財の返還、および難民分野だ」
と、連邦外務省 ( EDA/DFAE ) の報道官ラース・クヌーヘル氏がチュニスで報道陣に説明した。北アフリカ諸国における民主化革命により、新たな戦略を立てる必要に迫られたからだ。
「今回の新戦略は、革命が起きた国々のみならず北アフリカ全域に対するものだ」
と、外務省政策2課の課長マーセル・シュトゥッツ氏は述べ、さらに、
「しかしながら重要なのは、各国はそれぞれに歴史があり、異なる問題があるということだ。、国ごとに適応した措置を取る必要がある」
と付け加えた。
スイスは「オンデマンド ( on demand ) 」で、すなわち要請を受けてから援助提供を開始する。つまり、スイスに援助を要請をしない国には対応ができないということだ。
「こうしたことから、現時点での地理的重点はチュニジアに置かれており、われわれはチュニジア暫定政府とうまく共同作業を進めている」
とシュトゥッツ氏は語った。
経済協力
北アフリカ諸国における失業者は若年層が多く、とくに若い男性の失業率の高さは既に知られている、とシュトゥッツ氏は言う。その多くは職業教育を受けておらず、就労経験もないという。
「そのような若者がスイスで実習生として働く機会は、今日すでに存在している。職業訓練ビザがそれだ」
職業訓練ビザは、若者が最長18カ月間スイスで職業実習を行うことができるものだ。
さらに、若年層が数カ月という短期でもスイスに滞在して職業訓練を受けやすくするような、新たな職業訓練の機会の創設についても議論されている。しかしこれに関してはまだ何一つ決定していない、と外務省開発協力局 ( DEZA/DDC ) の特別大使アドゥアルド・グネザ氏は説明した。
不正蓄財の返還
連邦外務省国際法局の局長であるヴァレンティン・ツェルヴェガー氏は、スイス政府が1月にチュニジアのベンアリ前大統領およびその一族や側近の資金を凍結したことを明らかにした。
「次は、チュニジア政府が一人ひとりに対する刑事訴訟手続きに着手する番だ。スイスとしては、法治国家のもとで下される判決に従って資金を返還することになる」
スイスのミシュリン・カルミ・レ大統領は会議に先立って、現時点での凍結資金の全額を明らかにした。それによると、チュニジアのベンアリ前大統領関連が約6000万フラン ( 約56億2000万円 ) 、リビアのカダフィ大佐関連が約4億フラン ( 約374億円 ) 、エジプトのムバラク前大統領関連が3億6000万フラン ( 約337億2800万円 ) という。
移民対策
難民に関してスイスは、国外に避難する必要を最低限に抑えるような援助を行う方針だ。リビアでの戦争勃発以降、約60万人が国外に避難した。そのうち南ヨーロッパにたどり着いたのはおよそ3万人のみだ、とグネザ氏は言う。
そのうち約2万人がリビア在住のチュニジア人で、職を失い逃れてきた難民だが、リビアに戻ることができる日を待っている。というのは、リビアには再就職の機会があるとみているからだ。南ヨーロッパに逃れてきた難民の中には、ソマリアなどからの政治的難民もいる。
スイスは、そうしたチュニジア人が再び元の生活に戻ることができるよう引き続き支援する方針だ、とグネザ氏は述べた。
また、今回の会議終了後も引き続きシェンゲン・ダブリン協定を順守することが確認された。すなわち、協定を通じシェンゲン圏の内外を分ける共通の境界を画定する。また、難民は最初に入国したシェンゲン圏内の国に引き渡される。
「シェンゲン・ダブリン協定は役に立っている」
とグネザ氏はその効果を評価する。スイスは今年3月、スイスに入国した難民のうち5000人をシェンゲン協定圏内の最初の受け入れ国に引き渡し、さらに780人を同協定に基づいて難民として正式に受け入れたという。
グネザ氏は、ヨーロッパからチュニジアとエジプトへの帰還も行われていると指摘し、「現時点ではその人数は多くないが、今後増えることもあり得る」と締めくくった。
スイスの財政的取り組み
連邦外務省 ( EDA/DFAE ) は、予算の一部1200万フラン ( 約11億2000万円 ) を人道支援、難民対策、構造的改革、経済発展、および貧困との戦いに充てることを確約した。
2011年および2012年の外務省開発協力局の予算は、2000万~3000万フラン ( 約18億6600万~28億円 ) に上る。
End of insertion凍結口座
スイス政府は1月19日、チュニジアのベンアリ前大統領およびその関係者約40人の資産を凍結した。前大統領の辞任1週間前のことだ。
2月には、エジプトのムバラク前大統領およびその側近の資産を凍結。
ムバラク前大統領の資産額は公表されていないが、子息らのものと合わせて700億ドル ( 約5兆6100億円 ) に達するとの見方もある。資金凍結を機に反体制運動が高まり大統領辞任に追い込まれた。
2件の口座とも3年間にわたり凍結される。その間に資金が不正蓄財であると証明されれば、スイス当局が関係者と共同で返還方法を作成する必要がある。
立証されなければ、口座凍結を解除し、前大統領らの返金請求にも応じなければならない。
その場合に政府は、2月に施行された不正蓄財の返還に関する法律 ( RuVG ) を適用する可能性がある。
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